奈緒【ヘアメーク:竹下あゆみ/スタイリスト:岡本純子】 (C)エンタメOVO
山崎豊子による小説を原作に、戦災孤児となった男性の波乱万丈の半生を描いた「大地の子」が舞台化される。主人公の陸一心(勝男)を演じるのは、井上芳雄。勝男の妹の張玉花を奈緒、勝男の妻となる江月梅を上白石萌歌が演じる。物語の舞台は、第二次世界大戦後の中国。戦争孤児として中国に取り残された勝男が、子どものいない小学校教師夫妻の元に引き取られ、差別を受けながらも必死に生きていく。奈緒に本作の魅力や公演への意気込みなどを聞いた。
-テレビドラマ化もされた非常に有名な原作の舞台化になります。このお話を聞いて、どんなところにひかれましたか。
原作が放送されていた当時と今は、時代も大きく変わっていると思いますが、それでもなお、私たちが向き合い続けなければいけない、今だからこそ向き合わないといけない人の尊厳と「自分のアイデンティティーとは何か」という問いに、改めて私自身が向き合いたいと思いました。
-ドラマをご覧になってどんなことを感じましたか。
ドラマだと毎週放送されるので、長い時間をかけて、皆さんが同じようにこの物語を感じられたのではないかと思います。お芝居も含めて、私は同じ仕事をしているからこそ、大きな尊敬と畏れをドラマから感じました。今、役者として舞台で「大地の子」を届けることに対しての責任感の大きさを実感しています。
-それはプレッシャーを感じているということでしょうか。
そうですね、プレッシャーのように押しつぶされそうなものではないですが…。もちろん、この舞台に携わるキャストみんなで、一つの大きな何かを抱えられるということに対して、とても喜びも感じています。
-今回、奈緒さんが演じる、張玉花(あつ子)役の印象は?
舞台においてはストーリーテラーになるので、お客さんと一緒にこの物語を歩んでいく、道しるべのような存在になると感じています。だからこそ、自分がどう舞台上に立っているかが大事になってくると思います。そういった役柄を演じたことがこれまでにないので、どういるべきなのか、稽古場で見つけられたらいいなと思っています。
-兄の一心(勝男)役を井上芳雄さんが演じられます。
井上さんとは兄妹の役ですが、生き別れているので、舞台上ではそれぞれの人生を歩んでいくという時間が流れます。その別々の人生がどのように交差していくのか、私自身もすごく楽しみです。とはいえ、一心のシーンにもストーリーテラーとしてあつ子は存在できる構成になっているので、一心に何が起きたのかを目撃できるのはあつ子としてうれしいことでもあります。
お稽古はまだこれからですが、井上さんのお芝居から学ぶことはきっとたくさんあると思います。今回、私がこれまで出演した舞台の中で、一番、キャストの数が多いんですよ。そうしたカンパニーを座長として引っ張っていってくださる井上さんの背中を見ることができることも幸せに感じています。
-戦争孤児を描いた物語を令和の今、上演することについてはどのように感じていますか。
今年、戦後80年ということもあり、戦争を題材にした作品に触れることが多く、向き合う時間も多かったんです。実は今(取材当時)も戦争について取材をさせていただいているのですが、戦争を経験した方たちが今は90代になっていらして、例えば5年後の戦後85年という節目では、私たちはどれだけの方に直接お話を聞けるのだろう。今、すごく貴重な時間を私たちは生きているのではないかと、改めて感じた1年でした。なので、やはり伝えなければいけないという強い思いはあります。私たちがどういうふうに伝えるかによって、皆さんの「戦争を繰り返さないで」という思いがかなえられるかどうかがかかっていると思っているので、戦争をテーマにするということは大きな意義と責任が生じることだなと思っています。だからこそ、正しく伝えたいです。
-ところで、本作では試練を乗り越える力が描かれていますが、奈緒さんが過去に「この経験で強くなれた」という出来事を教えてください。
思い返してみると、逆境と出合ったときに自分は強くなれたのかなと思います。それから、最近は1人の時間が自分を強くしてくれたのかなとも感じています。本当に大切な人たちと毎日過ごしてお仕事をさせてもらっているので、みんなのおかげで強くなれているというところが自分の中にずっとあったんですが、思い返してみると、その前に、上京して1人でいた時間があって。あの1人の時間が自分のことを支えてくれているのかもしれないなと感じることができました。それもまた、一緒に仕事をするみんなのおかげです。
-俳優として、演じる上で大切にされていることやこだわりは?
物語を演じること自体が一つの虚像のようなものなので、だからこそ、うそじゃない瞬間を見逃したくないと強く感じています。(本作で演出を務める)栗山(民也)さんと以前、ご一緒させていただいたときに「固めてしまうことは恐ろしいことだな」と役者として思いました。毎日新しい気付きを得られるように、絶対に自分で固めないということを大切にしています。
-奈緒さんは今30歳という節目の年だと思いますが、ご自身の中で気持ちの変化はありましたか。
たくさんありました。きっと20代には20代なりの楽しさがあったと思いますが、今、すごく楽しいんです(笑)。自分の中にそれなりの余白がないと楽しいという気持ちは味わえないのかなと感じています。20代は30代を楽しみにして、駆け抜けたような年代だったので、余計に楽しいです。
-それは力が抜けたということですか。
そうですね。そろそろ自分の良しあしは自分で決められるようにならないといけないと、覚悟を持って感じられるようになったのだと思います。今は日々、自分から見た自分と向き合っているところなんですよ。私は私のことをどう思っているんだろう。どういうところを変えたいと思っているのかな。どういうところが好きなんだろう。そうしたことをこの1年で考えて、改めて自分のことを深く知れたように思います。
-この1年で特に印象に残っている出来事は?
どのお仕事も思い出深いものですが、舞台でいうならば、「WAR BRIDE‐アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン」という作品です。今、1年に作品は舞台に出演させていただいているのですが、(「WAR BRIDE」は)「30代初めての舞台だ。節目だ」と思いながら立った舞台でした。愛というものに向き合う舞台だったので、今一度、愛するってどういうことなんだろうと考えるきっかけになりましたし、惜しみなく愛について語り合うのはとてもいい時間だなと思いました。人生の中で愛について語れる時間はとても大事だと思わせてもらえる舞台でした。
-舞台にコンスタントにご出演されているのは強い思いがあってのことですか。
私の初舞台は「終わりのない」という作品だったのですが、その経験はすごく大きくて、そのときから「舞台の上に立ちたい」という思いがありました。やっぱり舞台には、人生の中で必要な緊張感があるのだと思います。緊張感や不安、作り上げる苦しみがあるからこそ、日常に戻ったときに幸せが際立って、大事にしたい、守りたいと思えます。知りたいという気持ちや乗り越えたいという気持ちなど、普段の生活の中ではなかなか感じることのできない気持ちも舞台では味わうことができる。なので、もっともっと舞台に立ちたいと思っています。
-最後に、30代の目標を教えてください。
やりたいことがたくさんあるんですよ。まだあまり人にお伝えしていないようにしていますが、たくさん計画していることがあります。まず、1番の目標は「時間配分を考える」こと(笑)。20代はあれもやりたい、これもやりたいとやりたいことが多すぎたので、少し落ち着いて、20代で得た知見でどうにか、どういう配分でやったらかなえられるかを考えてスタートしたいと思います。
(取材・文・写真/嶋田真己)
舞台「大地の子」は、2026年2月26日(木)~3月17日(火)に都内・明治座で上演。







