オーディオテクニカのターンテーブルについて聞いた

スマートフォン(スマホ)全盛の時代、なぜターンテーブル(レコードプレーヤー)やレコードが再評価されるのか。オーディオテクニカは、創業以来の強みである「トランスデューサー(音を変換する機器)技術」を軸に、デジタルの利便性を無理なく取り込みながら、国内外に「アナログとデジタルの融合」を提案している。若い世代の原点回帰を追い風に、オーディオテクニカはどんな体験価値を描くのか。商品戦略を統括する倉橋一成リーダーに、オーディオテクニカによるターンテーブルに対する取り組みを聞いた。

アナログに必要な分だけデジタルを足す

オーディオテクニカは、創業時代から磨いているアナログのトランスデューサー技術を核に据え、その価値を現代の生活で最適に届けるため、ワイヤレスやアプリ連携など、必要な分だけデジタルを融合させることに取り組んでいる。単に「最新を全部のせ」にするのではなく、「アナログの良さを失わない範囲で、日常の使い勝手を上げる」という割り切りがある。

倉橋リーダーは「当社にとってデジタルは主役ではなく、アナログの良さを最適に届けるための手段。創業以来の強みである『音を変換する技術』を中心に、必要に応じてワイヤレスなどを取り入れる。それが当社の『融合』の考え方」と語る。

若年層が「ぬくもり」に惹かれる理由

実は、オーディオテクニカのターンテーブルは若い世代の購入が増えているという。「若い世代がアナログへ回帰している」と聞くと「懐古趣味?」と思うかもしれない。しかし実態は少し違う。スマホと完全ワイヤレスイヤホンで聞くデジタルの音が日常になったからこそ、レコード特有の「ぬくもり」がむしろ新鮮な体験として受け止められているのだ。

倉橋リーダーは「デジタルネイティブの方々にとって、レコードの『ぬくもりのある音』は新しい体験。日常のストリーミングに、アナログの良さをどう組み合わせるか。そこに当社の提案価値がある」と説明する。

ブランドの高い露出と信頼も背中を押す。海外市場を含め、オーディオテクニカのターンテーブルやユニットは広く普及し、「このブランドなら間違いない」という安心感が、初めてのアナログ導入を後押ししているのだ。

トランスデューサー技術と厳格な音質基準

オーディオテクニカの背骨は、創業以来のアナログカートリッジ開発で培ったトランスデューサー技術にある。製品化にあたって「このクオリティを超えないと出さない」という明確な音質基準を置き、そこから逆算して回路や素材、機構を決めていく。だからこそオーディオテクニカらしい音が守られるのだ。

「価格ありきではなく、理想の音質に必要な技術を投じるという順番を大切にしている。時代に合わせた便利さも取り込むが、根っこは『音の良さ』」と倉橋リーダーはアピールする。

便利さは手段、主役は「音」

今、AIが世界的なトレンドとして注目を集めている段階で、オーディオ関連でも好みに合わせて音をパーソナライズ、部品進化による省電力や長寿命化など、実務的なメリットが多くなる可能性がある。通信側ではWi-Fi 6/7や5Gの普及がストリーミング体験を底上げし、ワイヤレス対応はもはや必須要素になりつつある。

そんな中、オーディオテクニカでは「AIを音質のイコライザーの進化形として生かす余地はある。ただ、あくまで主役は『音』。デジタルは体験を最適化するために使う、そのスタンスは変わらない」(倉橋リーダー)という。

住環境と体験機会、そして提案の具現化

日本でマルチルームやワイヤレス体験を広げるには、住環境に即した導入設計(1台からの始め方や部屋の広さに合わせた配置など)を具現化し、家電量販店やイベントでの体験機会を増やすことが肝心だ。加えて、通信の安定化が家中どこでも音が切れないという信頼感につながる。オーディオテクニカでは、ここにアナログのぬくもりを日常へ持ち込むセット提案(ターンテーブルとスピーカー)を重ねることで、一般ユーザーにも届く導線を描こうとしている。

「小さく始めて、あとから広げられる。そんな提案を増やしたい。例えばリビングで1台から始めて、ゆくゆくは書斎や寝室に。アナログの楽しさとデジタルの便利さを、生活の中で無理なく両立できるようにしたい」との考えを倉橋リーダーは示している。

デジタルの便利さを足すのではなく、アナログの良さを生かすために使う

オーディオテクニカによるアナログとデジタルの融合は、その順番を間違えない。日常のストリーミングに針を落とすひと手間を加えるだけで、音楽は思いがけず豊かになる。暮らしに寄り添う小さなアップデートを重ねながら、これからも音の「入り口」と「出口」を磨き続けるだろう。(BCN・佐相 彰彦)