スプリックス教育財団 基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025

                                       2026年3月26日

 概要

公益財団法人スプリックス教育財団(本部:東京都渋谷区/代表理事:常石 博之)は、基礎学力に対する意識の現状を把握することを目的に、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」を実施しました。本報告では、計算力が伸び悩んでいる子どもが直面している学習上の課題を、計算力や家庭の社会経済的背景(SES)との関係も踏まえて、6か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国、日本)の小学4年生を対象に分析しました。調査結果のポイントは以下の通りです。
調査結果のポイント

(1) 算数の勉強で抱える課題:「覚えなければいけないことが多すぎる」という暗記量の負担感が最大の課題
算数の勉強で抱えている課題について、日本以外の5か国では「覚えなければいけないことが多すぎる」という回答が最多でした。一方の日本は日本以外の国と比べると課題が少ない傾向にあるものの、「覚えなければいけないことが多すぎる」と「上手な勉強の方法がわからない」といった暗記量の負担感や勉強方法が課題であることがわかりました。

(2) 計算力との相関:「わからない点を解消する方法がわからない」が計算力に差
計算テストの成績と比較したところ、計算力が低い層ほど課題を感じている結果となりました。日本以外の5か国では、計算力層による差が最も大きかった設問は「わからない点を解消する方法がわからない」でした。一方の日本は「覚えなければいけないことが多すぎる」の差が最大で、計算力層により明確な差が生じていました。解決法の獲得や、暗記量の負担感の克服が計算力向上の鍵である可能性が示唆されました。

(3) 低SES層が直面する課題:日本は家庭環境による影響がみられ、低SES層への学習支援が必要
世帯年収などといったSES(家庭の社会経済的背景)と比較したところ、日本以外ではSES層による差は小さく、計算力層別の差よりも小さい傾向にありました。一方の日本ではSESが低いほど課題を感じている傾向にありました。日本では家庭環境による影響も計算力向上の課題であり、低SES層に対して積極的な学習支援の提供が必要である可能性が示されました。

 調査の背景

以前の報告で、「世帯年収」「教育費」「保護者の大卒率」「家庭の本の数」といったSES(家庭の社会経済的背景)が計算力と相関があることを示しました(「計算力と家庭環境に相関 世帯年収や親の学歴などで:6か国国際調査」スプリックス教育財団 参照)。家庭環境によって生じる差は、学校などの外部環境で直接改善することは困難です。しかし、計算力などといった基礎的な学力は、本来家庭環境によらず一定以上のレベルに到達することが期待されます。SES(家庭の社会経済的背景)による学力差を乗り越えるため、教育現場はどう支援すべきでしょうか。スプリックス教育財団は、子ども達が困難を克服する「レジリエンス(困難に立ち向かう力)」となる要因を解明することが、その答えにつながると考えています。

本報告ではその足掛かりとして、レジリエンスの発揮を阻んでいる可能性がある「算数の勉強で抱える課題」に着目した結果をご報告します。

 調査方法


・ 学校調査(日本)では、回答者はランダムに抽出されたものではありません。そのため、便宜上「国名」として記載していますが、特定の地域や学校の結果であることにご留意ください。
・ 日本のデータは匿名性保持のため、正確な調査対象者数を非公表としています。
・ 本報告では、日本の調査結果をインターネットパネル調査の5か国合計(以下パネル5か国と記載)との比較を中心に報告しています。
・ 本リリースに関する内容をご掲載の際は、必ず「スプリックス教育財団調べ」と明記してください。

 調査の目的と分析方法

本調査は、SES(家庭の社会経済的背景)による学力差を乗り越えるレジリエンス(困難に立ち向かう力)となる要因を解明することを目的の一つとしています。その足掛かりとして、まず今回は、子ども達のレジリエンスの発揮を阻んでいる「算数の勉強で抱える課題」に着目しました。基礎的な計算テストで伸び悩んでいる生徒が、算数の勉強においてどのような課題を感じているのかを具体的に特定し、今後の計算力向上のために特に低SES層に対して「どのような支援を優先すべきか」という方向性を導き出すことを目的としています。

この目的を達成するため、本報告では以下の3つの手順で分析を行いました。
- 算数の勉強で抱える課題:まず、子どもたちが算数の勉強においてどのような課題を感じているのか、その全体像を調査しました。
- 計算力との相関:次に、特定した課題が実際に計算力向上の妨げになっているかを分析しました。
- 低SES層が直面する課題:最後に、本報告のメインターゲットである低SES層が具体的にどのような壁に直面しているか、SES(家庭の社会経済的背景)による影響を比較・分析しました。

それぞれ、日本およびパネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)の小学4年生の結果を分析し、特に日本の小学生に生じている「レジリエンスを阻む課題」を明らかにすることを目的としています。

 調査結果

(1) 算数の勉強で抱える課題:「覚えなければいけないことが多すぎる」という暗記量の負担感が最大の課題
日本や各国の小学生は、算数の勉強においてどのような課題を感じているのでしょうか。算数の勉強で抱える課題に関して、次の5つの設問に「はい」または「いいえ」から回答していただきました。

質問「算数・数学の勉強について、以下はあてはまりますか。」
- 暗記量:覚えなければいけないことが多すぎる
- 解決法:わからない点を解消する方法がわからない
- 勉強法:上手な勉強の方法がわからない
- 目的:何のために勉強しているのかわからない
- 基礎:すでに習ったことの理解が不十分であり、基礎が固まっていない

日本およびパネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)の小学4年生が各々の設問に「はい」と回答した割合(肯定率)を図1に示します。

図1:算数の勉強で抱える課題(小学4年生) パネル5か国はアメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国。

パネル5か国では「覚えなければいけないことが多すぎる」という回答が、48.9%と最多でした。次いで「わからない点を解消する方法がわからない」「上手な勉強の方法がわからない」と回答し、暗記量の負担感や不明点の解決法、勉強法に課題が特に大きいと感じていることがわかります。

一方の日本は肯定率がパネル5か国と比べて小さい傾向がありました(5設問中4設問)。算数の勉強に悩む子どもは日本のほうが少ない傾向にあると言えます。特に「何のために勉強しているのかわからない」といった目的の不明瞭さを抱える小学生はわずか6.2%で、多くの日本の小学生が勉強の目的を把握しています。しかし、日本でも30.2%(同率)が「覚えなければいけないことが多すぎる」「上手な勉強の方法がわからない」を算数の勉強における課題として回答しました。日本の小学生は、暗記量の負担感や勉強法に課題を感じる傾向が示されました。
(2) 計算力との相関:「わからない点を解消する方法がわからない」が計算力に差
では、実際に計算力向上の妨げになっている課題はあるのでしょうか。計算テストの成績と比較しました。算数の勉強で抱える課題に関して、「はい」と回答した小学4年生の割合(肯定率)と計算テストの結果から分類した計算力層の関係を図2に示します。また、計算力層による差が大きい設問をみるため、計算力高位層と低位層で肯定率の差も示しました。

図2:算数の勉強で抱える課題と計算力の関係(小学4年生) 計算力層は、計算テストの正答率が高い順に国別学年別に高位・中位・低位の3層に分類。(a)パネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)、(b)日本。

パネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)(図2(a))では、計算力高位の肯定率を低位の肯定率が上回り、計算力層による差が統計的に有意でした(カイ二乗検定、p<0.05。ただし「何のために勉強しているのかわからない」についてはp=0.051)。計算力が低い層ほど課題を感じていると言えます。計算力層による差が最も大きかった課題は「わからない点を解消する方法がわからない」(計算力低位-高位の肯定率が22.7%pt差)であり、不明点の解決法を獲得していることが計算力向上に重要であることが示唆されました。

一方、日本(図2(b))においても、いずれの設問においても計算力高位よりも低位のほうが課題を感じている傾向にありました。さらに、パネル5か国と比べると計算力高位と低位での肯定率の差が大きい傾向がみられました。日本は、パネル5か国以上に計算力層が低い層ほど課題を感じている可能性があります。なお、計算力層による差が最も大きい課題は「覚えなければいけないことが多すぎる」(計算力低位-高位の肯定率が27.8%pt差)でした。日本においては、暗記量の負担感の克服が、計算力向上に重要であることが示唆されました。
(3) 低SES層が直面する課題:日本は家庭環境による影響がみられ、低SES層への学習支援が必要
では、低SES層はどのような壁に直面しているのでしょうか。算数の勉強で抱える課題への回答割合を、SES(家庭の社会経済的背景)の階層別に比較しました。算数の勉強で抱えている課題に関する5つの設問について、「はい」と回答した小学4年生の割合(肯定率)とSESの関係を図3に示します。横軸は世帯年収・教育費・保護者の大卒率・家庭の本の数といったSESの高低を示します。また、SES層による差が大きい設問をみるため、高SES層と低SES層で肯定率の差も示しました。

図3:算数の勉強で抱える課題とSES(家庭の社会経済的背景)の関係:パネル5か国と日本(小学4年生) SES層は「世帯年収」「教育費」「保護者の大卒率」「家庭の本の数」を国別学年別に統合・正規化した合成指標により高・中・低の3層に分類。パネル5か国はアメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国。

パネル5か国(アメリカ、イギリス、フランス、南アフリカ、中国)においては、いずれの設問においてもSES層による差が10%pt以内に留まり、SES層による差は計算力層別の差よりも小さい傾向がありました。その中では、SES層による差が最も大きかった課題は「覚えなければいけないことが多すぎる」(低SES層-高SES層の肯定率が9.7%pt差)であり、暗記量の負担感を課題にする子どもは、低SESほど多い傾向がみられました。

一方の日本では、SESが高い層と低い層で肯定率の差が15%pt程度開く設問もあり、パネル5か国と比べて家庭の社会経済的背景が算数の勉強への課題感に影響している可能性が示されました。日本の特徴としては、高SES層における課題感の低さがあります。高SES層においては、いずれの設問においても課題があるという回答がパネル5か国を下回っています。特に「覚えなければいけないことが多すぎる」「何のために勉強しているのかわからない」日本の高SES層が回答した割合は、パネル5か国の高SES層と比べて半分以下に抑えられています。これは、日本の高SES層において、算数を単なる暗記科目と捉えないような本質的な理解を促す経験や、算数の勉強と将来の目標の関連を意識する機会が得られている可能性を示唆しています。しかしその反面、日本の低SES層では依然として「覚えなければいけないことが多すぎる」「上手な勉強法がわからない」といった課題を持ったままになっている現状があります。

 結果の考察

本調査の結果から、日本国内においては家庭環境の差が計算力向上の「大きな壁」となっていることが浮き彫りとなりました。高SES層の子どもたちは、学外教育や私立学校、家庭内でのサポートを通じて「主体的な深い学び」や「個別最適なサポート」を得て、こうした壁を克服している可能性があります。SES(家庭の社会経済的背景)による学力格差を克服するために、中SES層・低SES層の子ども達に対しても公教育等の家庭外から「主体的な深い学び」や「個別最適なサポート」などを提供していく必要があることが示されました。

なお「すでに習ったことの理解が不十分」については、日本の中・低SES層の「はい」と回答した割合がパネル5か国を上回っており、他の4設問と異なる傾向を示しました(図3)。実際にはパネル5か国と比べても日本の基礎学力は低くありません(「計算力は高いのに、自信がない日本の子どもたち ~小4・中2 国際調査からわかった 意識と実力のギャップ~」スプリックス教育財団 参照)。この設問はパネル5か国(9.1%pt差)と比べて、日本での計算力層による差が非常に大きい(26.2%pt差)のが特徴です(図2参照)。中・低SESで計算力が中位・低位の子ども達は、自身の学力状況を客観的に把握できているからこそ、相対的に基礎力に不足を感じている可能性があります。

 まとめ

本報告では、算数の勉強で抱える課題と計算力・SES(家庭の社会経済的背景)の相関が示されました。日本はパネル5か国と比べて算数の勉強で抱えている課題が少ない傾向にあり、「算数の勉強で課題が少ないこと」が日本の高い計算力を支えている可能性があります。

その一方で、以下の3つは日本においても依然として課題であることがわかりました。
「覚えなければいけないことが多すぎる」という暗記量の負担感
「わからない点を解消する方法がわからない」という不明点の解決法の不足
「上手な勉強の方法がわからない」という勉強方法の課題

「暗記量の負担感」については、そもそも算数を「暗記するもの」と捉えているところに課題がある可能性もあり、カリキュラムの改善や主体的な深い学びの必要性を示唆します。「不明点の解決法の不足」については、適切な振り返り学習や個別最適な学習の提供など、設備や制度による対策が必要かもしれません。「勉強方法の課題」については、相談する相手や学習成果の測定が不足している可能性があります。

特にSESが低い層ほど課題を感じている子どもが多く、家庭環境由来の課題も解決が求められます。学習上の課題の改善は学外教育や私立校で先行する傾向があるため、低SES層に対して家庭外からの十分な支援が必要だと考えられます。

本報告は、「基礎学力と学習の意識に関する保護者・子ども国際調査2025」に基づく第12回目の報告です。今後もスプリックス教育財団では、計算力と相関がある意識や行動を探り、SESを克服するレジリエンス(困難に立ち向かう力)には何があるのかを探ってまいります。

 補足:計算テストの実施概要

本調査で実施した計算テストは、参加方法によって内容が異なります。
- インターネットパネル調査のグループ:TOFASの問題を一部抜粋した短縮版(全32問)を実施しました。回答形式は4肢択一の選択式です。
- 教室で参加したグループ:学校の教室において、国際基礎学力検定TOFASの計算テストを受験しました。回答形式は、選択式と記述式を併用しています。

そのため、両グループ間で正答率を直接比較することはできません。出題される問題は、学年に応じた基礎的な計算問題です。例えば、小学4年生では「43×2」、中学2年生では「(5x−9)−(−x−4)」といった内容が含まれます。

なお、TOFAS(国際基礎学力検定)の詳細は下記よりご確認ください。
TOFAS - 国際基礎学力検定
公益財団法人スプリックス教育財団 概要
公益財団法人スプリックス教育財団は、社会的支援を必要とする学生に対して奨学金の支給を行うほか、教育に関する調査研究を行いその成果を広く一般に公表し、もって青少年の健全な育成に寄与することを目的としています。

名  称:公益財団法人スプリックス教育財団
設  立:2023年4月
代表理事:常石 博之
事業内容:奨学金の支給、調査研究
財団HP :https://sprix-foundation.org/
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