神奈川芸術劇場(KAAT)の“KAAT次世代への古典芸能プロジェクト”の新たな企画として、若手舞踊公演「SUGATA」が誕生する。今回フィーチャーする若手は、故・中村富十郎の長男・中村鷹之資と、中村松江の長男・中村玉太郎。藤間流宗家・藤間勘十郎の新作舞踊劇『葛城山蜘蛛絲譚』を、素踊りで上演する。公演に先立って記者懇親会が開かれた。
KAAT若手舞踊公演 SUGATA『葛城山蜘蛛絲譚』チケット情報
「最初は古典という話もあったのですが、KAAT大スタジオといういつもと違う空間で、今の鷹之資くんと玉太郎くんに合うものをということで、新作に致しました。土蜘蛛退治のお話を中心にしつつ、『山姥』『紅葉狩』『戻橋』など様々な趣向を詰め込みます」と、勘十郎が説明。山姥/童子実は土蜘蛛の精を勘十郎、四天王のひとり・坂田金時を鷹之資、山神を玉太郎が踊る。
勘十郎が配役について「金時は四天王の中でも若くて力持ち。鷹之資くんのイメージと重なりますし、私が大変お世話になったお父様の天王寺屋さん(富十郎)もなさった役です。今回は母親役を私が勤め、“子別れ”の見せ場も作ろうと考えています。また、私の親戚でもある玉太郎さんには山神をやってもらいます。歌舞伎俳優にも私ども舞踊家にも憧れの役である『紅葉狩』の山神を踊れる役者になってもらいたい、という思いで作りました」と語ると、鷹之資は「勘十郎先生がくださったチャンスなので、精一杯頑張ります。金時は活発な役ですから、そう見えるよう元気よく踊りたい」と意気込み、玉太郎も「色々な方の期待に応えたいです。山神は、亡くなった(中村)勘三郎さんや(坂東)三津五郎さんもなさった凄い役。少しでも近づけたらと思います」とうなずいた。
鷹之資15歳、玉太郎14歳と初々しいふたりだが、ともに舞踊への思いは熱い。「昔から踊りは好きでしたが、4年前に父が亡くなり、改めて、もっと努力しなければならないなと思いました。父の踊りも長い年月をかけて完成させたものなので、僕も今の時期に基礎を固め、ゆくゆくは父以上にうまくなれるよう、気を引き締めています。父からはとにかく手を綺麗に、そして目を輝かせて思いきり踊るようにと言われたのをおぼえています」(鷹之資)
「小さい頃からずっとやっていますので、踊りは身近な大切な存在です。この公演でお客様に、上手になってきていることをお見せできたらと思っております。もちろん、細かい動きや綺麗さも大事なのですが、歌舞伎役者ですので、何よりもやはりその役らしく踊りたい。今回は山神の力強さや雄大さを出したいです」(玉太郎)
一見シンプルながら、見どころの多い舞台となりそうだ。「よく素踊りを“削ぎ落とす”と言いますが、祖父(二世藤間勘祖)は“削ぎ落とすのも大事だが、役の格・性根で勝負するんだ”と言っていたそうです。衣裳は着なくてもやせ細らず、その役に見えるのが素踊り。今回はそこに照明の工夫もし、古典の面白いところを色々と取り入れながら、カッコいい作品にしたいと考えております」(勘十郎)
公演は3月20日(金)から22日(日)まで。
取材・文:高橋彩子