モノがあふれるいま、「これだけは手放せない」と胸を張って言える道具は、どれくらいあるでしょうか。

暮らしの達人たちに話を聞きながら、数ある選択肢のなかで「なぜそれが手元に残り続けているのか」を、その人の価値観や暮らしとともに紐解いていきます。

今回話を聞いたのは、ROOMIEの連載「みんなの部屋」にも登場してくれた、フリーランスのプロダクトデザイナーの上田一輝さん

「自分にとってなくてはならない相棒のような存在です」と語るミニ財布について話を聞いてみました。

MINIMALIGHT(ミニマライト)のミニ財布

「気づけばもう6年くらい使い続けています」と上田さんが紹介してくれたのは、京都のアウトドアガレージブランドMINIMALIGHT(ミニマライト)の「PLAY WALLET」。

使い始めたきっかけは、プロダクトデザイナーの友人から譲り受けたことでした。

お付き合いのあったデザイン事務所の代表の方から教えてもらったのか、その方のPodcastで知ったのか……経緯は少し曖昧ですが、ブランドの存在を知って興味を持ったんです。機能的なのに値段も手頃で、自分もなじみのある京都に住んでいる方が手がけていると聞いてすごく惹かれました。

当時は発売されてもすぐに売り切れてしまい、なかなか手に入らなかったそう。そんなとき、同じくプロダクトデザイナーの友人が新しいモデルへ買い替えることになり、使っていたPLAY WALLETを譲ってもらうことに。

「かなりラフに使っています」と話しますが、6年使っているとは思えないほど状態は良好。角の擦れも少なく、生地のタフさがうかがえます。

ミニマムさと使いやすさの絶妙なバランス

キャッシュレス化が進む一方で、最近はむしろ現金を使う機会が増えたという上田さん。

ミニマムなサイズ感にも関わらず、お札や小銭、カードをたくさん収納することができる機能性の高さもPLAY WALLETならではの魅力だと語り、実際に財布の中身を見せてくれました。

小銭もカードも想像以上に入るんです。あと、開閉部分をボタンにするのか、マジックテープにするのかって、作る側としてはかなり悩むポイントだと思うんですよね。この財布はあえてマジックテープを選んでいるような気がします。

プロダクトデザイナーならではの視点で構造を観察することも多いそうです。

摩耗しやすいので小銭入れを外側に配置しているのかな、とか。外付けにすることで収納力も増えるし、本体も膨らみにくくなるんですよね。本当によく考えられているなと思います。

そして何より魅力なのは、必要な機能がシンプルな構造の中にきれいに収まっていること。

自分が求める機能が、これ以上ないくらいシンプルな形でまとまっているんです。それを大きなメーカーではなく、京都で一人の方が作っているというところにも惹かれますし、応援したい気持ちもあります。

これさえあれば外出できる安心感

気づけば相棒のような存在になっているミニ財布。半年ほど前から習慣にしている毎朝の散歩にも必ず持っていくそう。

散歩のときに必ず持ち歩くのが、財布と家の鍵とスマホとイヤホン。僕が忘れ物をしやすい性格ということもあって、鍵もGPSカードも財布の中に入れています。重い財布だとズボンが落ちてきたり圧迫感を感じたりするのですが、これは小さくて軽いのでノイズにならず、持ち歩く際のストレスもありません。

道中で朝ごはんや飲み物を買うことも多いのだとか

このループがなかったら買っていなかったかも

「一番好きなポイントは?」と聞くと、意外な答えが返ってきました。

財布の側面についた小さなループがとてもいいんです。一見するとさりげないディテールですが、リュックの中から取り出しやすいんです。

財布もリュックも黒なので荷物に埋もれやすくて。このループがあるとノールックで探せますし、そのまま指に引っ掛けて取り出すこともできます。

シンプルながら、さりげない遊び心と個性を感じる1本のループ

使い始めてから気づいた便利さではありますが、いまでは欠かせない機能のひとつになっているそうです。

愛着というより「体の一部」に近い感覚

6年間使い続けている理由について尋ねると、上田さんは少し考えてからこう話してくれました。

実家によくある、パンを買うことでもらえるお皿って、なぜかずっと使い続けていたりしますよね。PLAY WALLETもそんな存在です。革製品のように経年変化を楽しみながら育てるというより、気づけば毎日手に取っている存在なんです。時計やスマホのように、ないと困る生活の一部になっています。

時計(チープカシオ)と財布は肌身離さず身につけている相棒でありガジェット

さらに、仕事柄さまざまな場所へ足を運ぶなかで、「気を遣わなくていいこと」も財布選びの重要な条件だといいます。

工場へ行ったり、とにかく歩き回ったりすることが多いので、高価すぎるモノだと余計なことを考えてしまうんです。傷つけないようにとか、なくさないようにとか。そういう意味では、この財布は気兼ねなく使えるんですよ。

財布の薄さもお気に入りポイント

80点を出し続けてくれる道具

もちろん、不満がまったくないわけではありません。

カード類を1本のゴムでまとめる構造のため、特定のカードを取り出したいときに少し手間取ることもあります。レジ前で焦るとカードがバラバラになったりするんですよ(笑)。

それでも使い続けている理由は明快でした。

僕もたまにストレスに感じるんですが、それでも総合点が80点を下回ることがないんです。たぶんこの部分だけ見たらマイナス20点くらい(笑)。

完璧ではない。けれど、高い満足度を安定して出し続けてくれる。

その考え方は、プロダクトデザイナーとしての仕事にも通じています。

全部を便利にしようとすると、逆に誰にも合わないモノになってしまうことがあります。改善によって価格が大きく上がるのであれば、それは僕が考える「気を遣わなくていいモノ」から離れてしまう。だから、この使いにくさも含めて構造の一部だと思っています。

長く愛せるモノに出会う楽しみ

そろそろ新しいモデルへの買い替えも検討しているそうですが、次に選ぶ色はまだ決めきれていないのだとか。

photo:MINIMALIGHT

グレーもいいし、黒もいい。もちろん、派手な色にも惹かれるんですが、やっぱりノイズの少なさを考えると悩みますね。

最後に、デザイナーならではの視点で「長く愛せる1点」を選ぶ上田さんが考える、モノ選びがいまより楽しくなる考え方について聞いてみました。

僕は今年の目標を「失敗する」にしたんです。

何かを選ぶとき、「失敗してもいいか」と考えてみる。

そうすると一歩踏み出しやすくなり、思いがけない出会いにつながることもあるのだそうです。

自分で買い物をした経験って、結局すごく大事なんですよね。よかったことも失敗したことも、全部が次の選択の材料になると思います。

長く使い続けられる道具は、最初から運命の一品だったわけではないのかもしれません。試して、使って、気づけばそばに残っている。

上田さんにとってのPLAY WALLETは、そんな時間の積み重ねによって相棒になった道具でした。

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