事例3・すでに死亡している犯人の個人情報を拡散した

重大事件の犯人が個人情報を晒された時点で死亡(犯行直後に自殺など)している場合、名誉毀損は成立するのだろうか?

鈴木弁護士によれば「刑法に規定があり、こうしたケースでは“拡散した情報が虚偽の場合のみ”名誉毀損で罰せられます」。また、犯人は死亡しているとしても、拡散した情報によって犯人の遺族・関係者がなんらかの被害を受けてしまえば、その分について民事上法的責任を追及されてしまう場合もあるという。

聞きかじった知識だけで「名誉毀損は親告罪(告訴がないと起訴することができない犯罪)だから死者の個人情報をいくら拡散しても構わない」と調子に乗ると、思わぬところで法的なリスクが生じるわけだ。
 

事例4・SNSのログを過去まで溯って読みあさり、そこで得た犯人の個人情報を拡散させた

話題になっている事件の犯人が若者だった場合に多いのは、ネットユーザーによって「本人のツイッターやフェイスブックを調べ尽くし、過去の日記などから詳しい個人情報を調べ上げられる」ことだ。

その結果、報道されている事件だけでなく「未成年なのに3年前から飲酒喫煙していた証拠写真」など、余罪とおぼしき行為がしばしば露見してネット上に晒される。このような「誰にでもアクセスできる個人情報」の拡散についても、決して法的リスクを軽視できないと鈴木弁護士は言う。

「すでに皆に公開されている情報を拡散すること自体は、プライバシー権の侵害にはあたりません。ただしその行為により“本人の社会的評価を下げた”と判断されれば、名誉毀損が成立する場合があります。オープンになっている個人情報だから拡散しても大丈夫、というわけではないのです」(同)
 

事例5・犯罪にまでは至っていない行為者の個人情報を拡散させた

ネット上で個人情報を拡散されるのは、なにも法に触れた犯罪者だけに限らない。つい最近では、とある重大な事件を茶化したような写真を学生がツイッター上に公開し、それを見た多くのネットユーザーから批判殺到。実名、学校名、進学先まで晒されたことに学生はショックを受け、決まっていた進学を断念する結果となった。

このように「社会道徳に反しているが犯罪にはあたらない行為をした人間」の個人情報を晒すことは、法的リスクにどう関係してくるだろうか?

この場合も、鈴木弁護士によれば法的なリスクは充分に高いという。

「個人情報を拡散するのに正当な理由がなければ、まずプライバシー権の侵害に該当する行為です。情報を晒すことで本人の社会的評価を下げたと認められれば名誉毀損にもなり得ます。重大な事件を犯したわけでもなく“不謹慎だから”という理由だけで個人情報を晒す行為は、一般的には正当な理由として認められにくいでしょう」(同)