事例6・凶悪事件に便乗して「無関係な人物」を犯人と偽り、その個人情報を拡散させた
普段から気に入らない知人や上司がいたとして、凶悪事件が起きた際に「こいつが犯人だよ」と偽って氏名・顔写真などをアップロードする行為。鈴木弁護士によれば「法的なリスクはもちろん最大です」とのことだ。
名誉毀損で罰せられないためには「情報が真実である、または真実と信じるに足りる」ことが必要だが、犯人を捏造している時点でこれは完全に消える。刑事罰としての名誉毀損は親告罪なので、被害を受けた本人の訴えがあれば、プロバイダーのアクセス記録等から書き込んだ個人を特定されて逮捕の可能性まであるという。
ここへさらに民事でも名誉毀損、そしてプライバシー権の侵害などが加わり、損害賠償責任が生じる可能性も高い。
事例7・報道目的だと理由をつけ、少年犯罪者の詳しい個人情報を拡散させた
マスメディアによる「少年犯罪者の実名報道」は昔から幾度となく行なわれており、川崎市で起きた中学1年生殺害事件でも一部の週刊誌で犯人が実名報道された。
ネットユーザーからは「加害者だけ法律で守られているのはおかしい」「こんな残虐な犯人は大人と同じ扱いでいいだろう」と支持する声も多く聞かれるが、未成年の犯罪者を実名で報道しないことは少年法第61条に定められている。では、なぜ一部の週刊誌などはたびたび実名での報道に踏み切るのだろうか?
鈴木弁護士は「少年法の第61条に罰則規定がないとはいえ、実名報道をする正当性が認められなければプライバシー権の侵害にあたることは否定できません。川崎の事件では凶悪犯罪でありますが、犯人がすでに身柄拘束されており逃亡の可能性もなく、実名報道をする必要性があったか疑問が残ります」と話す。
週刊誌側は訴訟により支払う可能性がある損害賠償額と、実名報道により見込める売上アップとを天秤にかけ、今回の判断に踏み切ったということだろうか。
なお、最近は川崎の事件に限らず、ネットユーザーが犯人の自宅前まで行って「動画の生配信」をすることが増えてきた。そこには見る人が見れば分かる所在地情報や、犯人の家族とおぼしき人物の姿が映っていることもある。この行為についても鈴木弁護士は法的なリスクを指摘する。
「いくら報道目的を主張しても、個人の動画配信が面白半分でなされたもので“専ら公益目的のために行なわれた”とは見なされにくいでしょうし、プライバシー権を侵害する正当な理由があるとも言えません。犯人の氏名や住所を文字で晒すのと同じように、こうした動画の配信も違法性があるとして、名誉毀損、肖像権侵害、プライバシー権の侵害にあたる可能性があります」(同)
まとめ
さまざまなケースについて「犯罪者の個人情報をネット上で公開・拡散させる行為」を見てきたが、ほとんどの場合においてアウト、すなわち“法的リスクあり”という結果になった。
ある人は純粋な怒りと正義感から、またある人は炎上祭りで騒ぎたくて――何か大きな事件が発生するたびにネット上を賑わす“個人情報晒し”。「こんな凶悪犯に情けはいらない」「もっと追い込め」「人生終わらせてやれ」。過激な言葉とともに一個人へ“私的制裁”を加えるネットユーザーが少なからず見受けられるが、それ自体もまた罪になるということはよく知っておきたい。
●鈴木淳也弁護士
弁護士法人アディーレ法律事務所所属。札幌弁護士会所属。
大学時代には山に登って地質調査をするなど、地球温暖化システムについての研究をしていた。しかし将来について迷っていた時に「困っている人を助けなさい。自分が本当にやりたいことはそれでよいのですか?」という夢を見たことから、決まっていた就職を辞退し、司法試験を目指すことに。
現在は全国に2名しかいない、気象予報士の資格を持つ理系弁護士として、困っている人に寄り添う弁護活動を行う傍ら、お天気情報をブログで発信している。
また「ハンゲキ」(フジテレビ)では詐欺師を追い詰めるクールな弁護士として出演。さらに「5時に夢中!」(TOKYO MX)にレギュラー出演するなど幅広いメディアで活躍中。