1970年のメンバー同士の出会いから85年のライブエイドでのパフォーマンスまで、ロックバンド・クイーンの紆余(うよ)曲折の軌跡を、リードボーカルのフレディ・マーキュリーの屈折と葛藤を中心に描く『ボヘミアン・ラプソディ』が公開された。監督はブライアン・シンガー。
いきなり、20世紀フォックスのファンファーレがエレキギターで奏でられる。これはメンバーのブライアン・メイとロジャー・テイラーが新録した“クイーン・バージョン”だそうだが、これを聞いた瞬間に、本作の“本気度の高さ”を感じてうれしくなった。
そんな本作は、まず第一に、フレディ役のラミ・マレックをはじめ、メンバーのブライアン、ロジャー、そしてジョン・ディーコンを、それぞれ、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロが見事に演じているのが見どころだが、ただの再現芝居では終わっていないところがすごい。
見ているうちに、だんだんと本物の4人がそこに映っているかのような錯覚に陥る。中でもライブエイドのシーンは圧巻だ。これは音楽的には、ブライアンとロジャーが全面的に監修したことが大きく影響しているのだろう。
フレディの一挙手一投足まで身につけたマレックを指導したムーブメントコーチが「フレディが子供の頃、ボクシングとゴルフと長距離走をしていたことが、拳を突き上げ、膝を上げて走り、マイクをゴルフクラブのように扱うパフォーマンスにつながったはず」と分析しているのも興味深い。
ちなみに、マレックは『ナイトミュージアム』シリーズのアクメンラー王子役が有名で、マッゼロはかつて名子役として『ジュラシック・パーク』(93)などで活躍したことでも知られる。もともと演技はうまいのだ。
また、タイトル曲の「ボヘミアン・ラプソディ」などの製作秘話が描かれるのも高ポイント。『ジャージー・ボーイズ』(14)のフォー・シーズンズ同様、才能のある者同士が集い、曲が出来上がっていく様子を見るのは楽しい。
その他、およそ6分の「ボヘミアン・ラプソディ」が長過ぎると批判するプロデューサー役を、『ウェインズ・ワールド』(92)で“クイーン狂”の若者を演じたマイク・マイヤーズが演じている、という楽しい楽屋落ちもある。
個人的には、ラジオで「ボヘミアン・ラプソディ」が流れる際は、7分あるビートルズの「ヘイ・ジュード」とともに、途中でカットされることが多かったことや、最初はちょっと変わったアイドルロックグループだと思っていたクイーンが、「ボヘミアン・ラプソディ」が収録された『オペラ座の夜』で評価を一変させた時の驚きや、衛星中継を見ながら、今か今かと登場を待ったライブエイドのことなどを懐かしく思い出した。
とは言え、クイーンをリアルタイムでは知らない世代も、パワフルな本作を見れば、素晴らしい曲の数々、フレディの圧倒的なパフォーマンス、ロックバンドとしてのクイーンのすごさなどを思い知ることは間違いないと感じた。(田中雄二)