(左から)ジャッキー・ウー監督、丘みどり(C)エンタメOVO
乾物屋の女将として家族を支えながら、48歳にして演歌歌手の道を歩み始めた女性の奮闘を描く『演歌の坂道』が、10月16日から全国公開された。本作でヒロインの高橋良子を演じ、映画初主演を務めた演歌歌手の丘みどりに話を聞いた。
-監督、本作を製作したきっかけから伺います。
ジャッキー 僕は、もともと作詞家のアシスタントをしていたのですが、その時にいろいろな人間模様がありました。うまくいってレコードデビューをした方もいれば、道半ばで挫折する方がいたり、夢を追い過ぎて大切なものを見失ってしまう方もいました。その中で、今回の「演歌の坂道」は坂道ですから、上がることも下がることもある、そのはざまの中で作っていきたいと。それが、僕がアシスタントをやっていた時の気持ちの整理にもつながるかなというのがありました。
-では、川﨑麻世さんが演じた役に、ご自身のことが結構反映されているのですか。
ジャッキー 僕自身ではないですけど(笑)。ああいう方がたくさんいました。でも川﨑さんの役は悪役ではないです。結局、曲を作ったし、一生懸命やっているのは確かなんです。ただ、ちょっと偉ぶったり、業界ぶったり、夢を大きく語ったりするところがあります。でもこの業界ではよくあることなので。決して悪役ではないです。
-丘さん、映画初主演はいかがでしたか。
丘 本当に楽しい時間を過ごさせていただきました。お話を頂いた時は「私でいいんですか?」と何度もお聞きしましたが、ストーリーに、デビュー当時のことや、現在の自分といろいろ重なるところがあったし、今の生活を改めて考える機会にもなったので、とてもいい時間になりました。
-丘さんは監督のご指名だったのですか。
ジャッキー そうです。僕の中で乾物屋の女将さんというのは決まっていました。でも、素朴さと美しさを両方持っていなければ、物語はできません。乾物屋の女将さん役が似合って、なおかつステージでどんどん華やかになっていくという部分に関しては、やっぱり丘さんしか見えなかったです。
-最初に脚本を読んだ印象はいかがでしたか。
丘 本当にありそうな話というか、身近な感じがしたので、この役を演じたいと思いました。
-映画初主演のプレッシャーは?
丘 本当に不安でした。映画の世界は大変だというのは周りから聞いていましたし、映画監督は怖い人みたいなイメージがあったので、私にやっていけるかなという不安がありましたが、監督は全然怖くなかったです。撮影の都度、「この感じで合っていますか?」と聞いて、教えていただきました。
-演じる上で、気を付けたことや心掛けたことはありましたか。
丘 普段のステージでは、とにかく遠くの人にも見えるようにと、大げさな動作をしたり、大きな声を出したりします。なので、さり気なくとか、肩の力を抜いてせりふを言ったことがなかったので、そこはすごく気を付けました。
-監督、丘さんの演技はいかがでした。
ジャッキー 映画を見ていただければ分かると思いますが、歌はもちろん、演技もすごくいいです。一つのことに対して10個ぐらいのエモーションを持っているんです。本当に驚きました。だからNGは、普通は駄目な時に出すのですが、今回は「もっといけるかな」のNGを出させてもらいました。今後丘さんが、女優として大きくなればなるほど、ジャッキーが見いだしたということを書いていただければうれしいです(笑)。
-「いい日旅立ち」を何回も歌う場面がありましたが、いかがでしたか。
丘 自分の歌手生活で、「もっとうまく歌え」と言われたことは何度もありますが、「もっと素人っぽく素朴に歌ってほしい」というのは初めてでした(笑)。そこの引き算が難しかったです。もっと声を伸ばしてとか、声を張ってとかはできるんですけど、あまりやり過ぎるとわざとらしいし、どの辺りで折り合いをつけるのがいいのかなと。あのシーンは何回も撮り直しました。
-良子のキャラクターをどのように理解して演じましたか。
丘 私も歌の仕事をしながら、家族がいるので、何か良子さんと気持ちが重なる部分がありました。たくさん歌って帰ってきて、息子の寝顔を見ながら一緒に寝るシーンなどは、今の生活と同じなので。こうなった時に、母親なのか、妻なのか、歌手としての自分の夢なのか、どれを選ぶ。どうバランスを取るみたいなことは、常に私も考えていることなので、とても共感できました。
-乾物屋の女将さん役を演じるというのはいかがでしたか。
丘 その部分では、自分の生活の中に重なるところが全くなかったし、商店街の乾物屋さんに行ったこともありませんでした。ちょうど地方に行くことが多かったので、実際にいろいろな乾物屋さんに行って雰囲気を確かめたりしました。本物の女将さんの接客などを見させていただいて、自分の中でこんな感じかなとか、髪形はこんな感じにしようとか、いろいろと考えて、役に生かしました。
-完成作を見た印象はいかがでしたか。
丘 自分の演技のことは照れくさくてよく分かりませんが、自分が出ていないシーンを初めて見て、こんな感じになっているんだと、新鮮な気持ちで楽しめました。川﨑麻世さんの、実は愛のあるシーンや、私1人のシーンのふとした表情、後は、アキラ(100%)さんが夫役だったから、私もこの演技ができたんだなというシーンがたくさんあったので、とても感動しました。
ジャッキー 僕は、映画を作る時はメッセージ性を大事にしています。今回は、夢は幾つになっても追っていいものだということ。その根底にあるのは一歩前に進めていく勇気なんだということ。それを見守ってくれる、家族や恋人、友だち、町内の人たちとの絆。そういうことが描けたので、僕としてはすごくいい作品ができたと思います。
-観客や読者の方に向けて、アピールポイントも含めて一言ずつお願いします。
丘 夢を持つことは、幾つになっても大事なことだと改めて思いました。普通の生活の中に光をくれて、生きる勇気にもなるし、それでまた頑張れることもあると思います。あの頃の夢を思い出すでもいいですし、今また新しい夢を持つでもいいですけど、夢を持つことの大切さを、この映画を通して改めて感じていただければと思います。人との付き合いが薄くなってきている時代だからこそ、この映画の隣近所の人たちとの温かい付き合い方を見ていただければ、人間関係の素晴らしさも感じていただけると思います。
ジャッキー 今回は海外に向けても作らせていただいたので、日本の文化の一つである演歌、後は世界にも広がっているカラオケ。この二つの文化を通して、夢に向かっていく勇気を描きたいと思いました。夢を諦めない、一歩前に出ていく勇気。これがあることによって人生がどんどん変わっていく。夢がかなうかどうかではなく、その勇気を持った一歩において、周りの波動がいろいろと変わってくる。その中で本当に正しいものが見えてくる。忘れかけていた夢に対して、一歩前に出る勇気を少しでも感じていただけるような映画になっていたらと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)







