11月28日夜の『ドン・キホーテ』で華やかに開幕したマリインスキー・バレエ日本公演。その本番を前に、28日午後、東京文化会館で舞台稽古が公開され、本番さながらの熱のこもったステージが繰り広げられた(衣装付きの稽古は一幕のみ)。
舞台リハーサルを行ったのは、29日(木)のキャストで、キトリ役はレナ―タ・シャキロワ、バジル役がティムール・アスケロフという新鮮なコンビ。エスパーダにロマン・ベリャコフ、街の踊り子はプリンシパルのエカテリーナ・コンダウーロワが華を添える、サプライズのような豪華さだ。
シャキロワは強靭な足と柔らかな上半身で踊りが大きく、明るくお茶目なキトリのキャラクターがぴったり。跳躍はフワッと軽く、回転もスピード感があり、三幕のグラン・フェッテでは扇を持った手を上げる超絶技巧を見せていた。アスケロフは美しいつま先、長い足がノーブルな雰囲気で、シャキロワを献身的にサポート。リハーサル中もよく声をかけ、確認しあっている場面が見られた。
街の踊り子のコンダウーロワは、ポンパドール風に盛り上げたヘアスタイルの効果もあり、うっとりするほど艶やか。コケティッシュな踊りで場をさらう。ベリャコフは、男性陣の中でもひときわ長身のスタイルと大きな手が魅力的。マントを翻してフェロモンたっぷりにエスパーダを踊った。
花売り娘(キトリの友人)には石井久美子が登場し、チャーミングな笑顔に溌剌とした踊りで場面を盛り上げる。登場シーンも多く大活躍だ。作品の肝となるドン・キホーテ、サンチョ・パンサ、ガマーシュもそれぞれが愛すべきキャラクターで目が離せない。
ファテーエフ芸術監督は、列の並び、音楽のテンポなどを細かくチェックしながら客席からマイクで指導をし、時には立ち上がって指示をだす熱の入れよう。群舞の場面は繰り返して行い、ダンサーたちも疲れを見せずにそれに応えていた。
二幕では、アムール(キューピッド)に永久メイ、森の精の女王には今年入団し、ソリストとなったマリア・ホーレワ、ドルシネア(キトリ)のシャキロワという今後のマリインスキーを背負う若手が並んだ。永久はひときわ細く可憐なスタイルでキューピッドの愛らしさを表現し、個性を発揮していた。
マリインスキーがゴールスキー版『ドン・キホーテ』を日本で上演するのは実に22年ぶり。舞台装置や衣装も美しく、二幕の夢の場面の満開の桜のような装置、三幕のランタンが灯る奥行きのある背景は、どこか日本的な情緒を感じさせるのが不思議だ。またマリインスキー歌劇場管弦楽団が層の厚い演奏を聞かせ、バレエがとびきり贅沢な総合舞台芸術であることの喜びを改めて感じさせてくれる。目の肥えた日本の観客にとっても新しい発見に満ちた公演となりそうだ。
マリインスキー・バレエ日本公演は12月9日(日)まで上野・東京文化会館にて行われる。
取材・文/郡司真紀