カンヌ映画祭で2度パルムドール大賞を受賞した、名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の最新作『サンドラの週末』が23日から公開された。
小さな工場で働くサンドラ(マリオン・コティアール)は、体調不良から復帰した矢先の金曜日、会社から突然解雇を言い渡される。解雇を撤回させるには、半数以上の同僚がボーナスを諦めた上にサンドラの復職に賛成投票する以外に方法はない。期限は月曜日。同僚を必死に説得して回るサンドラの“長い週末”が始まるというストーリー。
仲間の雇用確保かボーナスかという究極の二者択一を迫られる同僚たち。残酷で皮肉なこの物語は、1990年代末にフランスやベルギーの小さな企業で実際に起こった出来事が基になっているという。このように、ありふれた日常の出来事をヒントにして社会派の映画を作り上げるというのがダルデンヌ兄弟のスタイルだ。
彼らは、外国人不法就労問題を背景にした『イゴールの約束』(96)、工場から解雇されたヒロインの苦悩を描いた『ロゼッタ』(99)、生活保護給付金と盗みで得た金で生活する若いカップルを主人公にした『ある子供』(05)などで、孤独な人物を主人公に、労働や雇用に関する問題提起を行った。そして彼や彼女が置かれている状況が変化したところで唐突に映画を終え、後は観客に判断を委ねるという形を取ってきた。
今回も主人公の変化を描くという点では同じだが、ヒロインのサンドラは夫や同僚の支えもあり決して孤独ではない。しかもラストシーンでは明確な希望や救いも描かれる。その点では彼らの作風にも大きな“変化”が見られる。そこには経済危機が続き、人々の連帯感が欠如する中、現実もこうあってほしいという願望が込められているのだろう。
また本作は、誰がサンドラの味方になるのか、一体最後はどうなるのかというサスペンスで観客の興味を引き付ける。そしてサンドラの訪問を通して、同僚たちの人間模様や生活が浮き彫りになるところも見どころとなる。監督自身が「この映画に“悪役”はいない。サンドラは決して同僚たちを断罪しないことが重要だった」と語るように、皆がさまざまな事情を抱えながらそれでも懸命に生きているということを丁寧に描いている。だからこそ観客も彼らに共感し、身近な問題として捉えることができるのだ。(田中雄二)