現代都市で育ったわたしはこんな日常のすぐ傍らに歴史的なものが紛れ込んでいるなんてさっぱり知らなかった。
それから、店主と話をしていると
なにやら話が合ってしまい、意気投合。
そして運命の一言が発せられる。
「キミ、明日からウチで働かんかね!?」
かくしてわたしは普通の娘から刀屋娘へと進化を遂げたのであった。

刀屋娘生活、はじめました

ひょんなことから始まった刀屋娘生活は、思った以上にすんなりわたしの生活に溶け込んでいった。
今までの人生で刀なんて触ったこともなかったのにまさか売る日が来るとは…。

安いものなら10万以下。
高いものだと500万以上もある。
日本刀というとみんなおっかない想像をするらしいが、
メイン層は牧歌的な刀マニアのおじいちゃんだ。
他にも、居合をする人、外国人…と老若男女さまざまである。
意外にも今の刀剣業界はネットが発達していて、
来客よりもサイトによるネットショッピングが多い。
みんな、運命の一振りに出会うために、少しでも多くの店が見たいという情熱で
ネットの海を探し回っているのだろう。

わたしはまず、「刀装具」の存在が気になった。
日本刀とは、ただの無骨な武器じゃない。
たくさんの付属品によって使いやすく、オシャレになるハイブリットな美術品でもあるのだ。

特に芸術性が高いのは
わたしが初めて店を訪れたときに「なんだろう?」と思った小道具の
手を刃から守るための鍔、柄(持つところ)につける目貫、縁と頭。

小道具には
獅子や麒麟などの動物、トンボや蜂、コオロギといった虫、
源平合戦や七福神などの人物や神、花や草木などのきれいな植物や
茄子やしいたけ、新巻鮭などの食べものを模したものも多い。
そのものも金や赤銅で作られ美しいし、
ちょっと考えてみてほしい。
自分が命を懸けるかもしれない場において、しいたけを連れ添った男の気持ちを。
どういう理由でしいたけを選んだかは分からないが
いずれにせよ、かつて刀にしいたけの目貫をつけていた男がいたのだ。
そう思うだけで非常にワクワクした。