オーディエンスと交わされる細胞レベルのキャッチボール
もうひとつ、いまの彼らの“振れ幅の豊かさ”を感じた瞬間がありました。
村石雅行のドラムソロが誘う不穏なイントロが刺激的だった『ゴールデンタイムラバー』から、最新作随一の攻撃性を持つ『ゲノム』に雪崩れ込むパートでは、照明を駆使した演出もすばらしく、この日のライブでひとつの沸点を演出していました。ここで驚いたのが、直後にこれまた最新作随一の激ポップ&激デレチューンである『パラボラヴァ』が投下されたことです。
これ、セットリストだけ見ると「高低差ありすぎて耳キーンなるわ的流れ」と思うかもしれません。しかし実際にライブを観てみると、そのように感じることはまったくありませんでした。『ゲノム』も『パラボラヴァ』も正しくスキマスイッチの最新モードであり、そこには心地よいギャップこそあれど、矛盾は存在しないのです。
で、このようなスキマスイッチの振れ幅を、武道館を埋め尽くすオーディエンスがひとり残らず細胞レベルで共有しているのがすごい。これは双方が音楽を介してちゃんとキャッチボールできていないと成立しないことだと思うのです。
この日のライブの大成功っぷりは、スキマスイッチのふたりがファンに向けて、根気強く音楽というボールを届け続けてきた証であり、ファンがふたりから投げられた(ときには変化球や暴投を含む)ボールを、しかと受け止め続けた証そのもののように感じました。
今回の武道館公演は「最新アルバム(しかもセルフタイトル作)を引っさげて行われた全国ツアー(しかも全会場完売を受けて急きょ決定したツアーファイナルとなる追加公演、さらに会場は武道館)」という、“上げられるハードルは全部上げとけ!”と言わんばかりに盛りまくり&煽りまくった公演でした。
そんななか繰り返しとなりますが、結果としてスキマスイッチのふたりはこの日、ただただ、歌い、笑い、叫び、汗をかいて、ひたすらに音楽を奏でていました。ただただ、音楽をやっていただけでした。
で、これこそがいまのスキマスイッチにとって至上のライブであり、ふたりはずっとこれがやりたかったんだろうなあ、と、ステージで生き生きと躍動するふたりを見てそう思いました。