プーは「非常に日本的な物語」
――本展を通して何を伝えたいと考えていますか?
我々が何かを伝えるというのはちょっと上から目線で、そういうことを考えているのではなく、我々としては元々ミルンとシェパードが伝えたかったメッセージを、できるだけきれいな、純粋な形で、来られた方々に伝えられればと思っています。
ミルンとシェパードが伝えたいと思ったメッセージとは、きっと「Simple Thing」=日々の普通のこと。
例えば森の中を散歩すること、友達と一緒に棒投げをすること、ちょっとした問題を解決すること、あるいは友情を深く味わうこと――そういう、人生の中の小さなことだけどすごく大切なこと、その喜びを作者と画家は伝えようとしたのだと思います。それを感じていただければとても嬉しいと思っています。
幸いに日本の会場でも素晴らしい設営をしてくださったので、皆様にそんなメッセージを感じていただけるのではないかと思っています。
また考えてみるとプーというのは、もしかしたら非常に日本的な物語なのかもしれません。
スケッチを見ると分かるように、ちょっとしたシンプルな絵と少ない言葉で書かれた文章で、大事なメッセージを伝えてくれる。そんなところが、非常に日本的な考え方じゃないかとも思うんです。
各国の文化に合わせた翻訳を通して、プーのイメージが進化する
「クマのプーさん展」は世界巡回の企画展ですが、日本では独自の展示として「日本とプーさん」というコーナーがあります。
これは、「クマのプーさん」の邦訳者である石井桃子さんとプーの人生を紹介するものです。
――石井桃子さんを紹介する日本向けの展示を入れた理由はなんでしょうか?
この展覧会を見ていただくと、非常に深く感じられるのではないかと思うのですが、プーというのはイギリスで生まれたものなんですけれど、それぞれの国の、それぞれの翻訳によって全く違うものになっているというのが、非常に面白いところなんです。
先ほど話しましたように、プーにはあまり多くの言葉や文章が使われていません。シンプルな言葉がどういうふうに翻訳され、また作品を受け入れる文化がどういうものかによって、全然違うプーが誕生するんです。
例えばロシアではプーは全然違うものになっています。ロシアの文化に合ったものになっているんですね。イタリアでもそうです。
またディズニーの登場によっても、プーのイメージは非常に大きく変わりました。
つまり翻訳といっても、ただの直訳では不十分なんだと思います。
自分の子供も学校でイギリスの文章をフランス語に訳したりしていますけど、それだけでは原文の精神や心というのは伝わらないわけです。
それぞれの文化に合わせて翻訳を通してプーのイメージが変容・進化する、というのが、とても重要ではないかと思っています。
有名な話なんですが、ジェフリー・アーチャーという英国議会の議員にもなった方で、元々は作家でスリラー小説などを書いた方なのですが、私に言わせると彼の英語はひどいもので、空港で暇のあるときにしか読まないようなものなんです(笑)。
しかしフランスでは非常に有名な小説家が彼の本を翻訳することになったため、ジェフリー・アーチャーはフランスでは素晴らしい文学者として知られているんです。
翻訳といっても、いろいろあるんですね。