都内・蒲田近辺で強盗殺人事件が発生。被疑者の一人として、過去の未解決殺人事件の重要参考人だった松倉(酒向芳)の名が挙がる。事件を担当したベテラン検事の最上(木村拓哉)と新米検事の沖野(二宮和也)は、捜査方針をめぐって対立。やがて最上と松倉の過去の因縁が明らかになり、沖野は師である最上を「松倉を犯人に仕立て上げようとしているのではないか」と疑い始めるが…。昨年公開され、大きな話題を呼んだ『検察側の罪人』のBlu-ray&DVDが2月20日に発売される。本作の原田眞人監督に、主役の2人の印象や、映画に込めた思いなどを聞いた。
-『関ヶ原』(17)の岡田准一さんに続いて、今回もジャニーズ事務所の木村拓哉さんと二宮和也さんが出演していますが。彼らに共通するものは何かありますか。
ジャニーズの人たちはみんなマナーがいいですし、役に対する取り組み方がとても真摯(しんし)です。脚本をきちんと読み込んでくるし、感性も鋭いので、細かいことを説明しなくても済みます。それに我が強くない。ちゃんと、そこに合わせて、という着地点をうまく見つけてきます。だから、役を一緒になって作り上げていくことができる。とてもやりやすいです。
-では、木村さんと二宮さんの違いは?
サッカーに例えれば、木村さんはボランチで、視野の広い司令塔ですね。二宮くんは足が速くて突っ込んでいくフォワード。絶対誰にもパスをしないという(笑)。木村さんは積み重ねてきた経験値がものを言うタイプ。それに対して、二宮くんは天才的な反射神経で処理をしていくタイプで、切り替えが早いです。だから細かいことは考えないで、現場に入って、僕や共演者と話をしたり、リハーサルを通して出てきた発想を大事にしていました。この映画の取り調べのシーンで、松倉のまねをして口を鳴らすところも、本人がアドリブでやったことです。
-監督は『関ヶ原』の際に、「原作をいかに生かすかを考えた」とおっしゃっていました。今回は、例えば原作にはないインパール作戦のくだりが入っていますが、映画と原作との間や関係についてはどうお考えですか。
今回は、原作を残しているのは基本的には前半までです。それは、登場人物に人間としての魅力がどれだけあるかということに重点を置いたからです。正直に言うと、原作の最上にはあまり魅力を感じませんでした。エリート検事が犯罪を犯したとして、あんなドジを踏むものかと。もっと頭がいいだろうと。そういう意味で、その部分を掘り下げていくと、ブローカーの諏訪部(松重豊)との連帯感というのも、単に取り調べ室で知り合ったというのでは駄目だと考えました。それで、以前から気になっていたインパール作戦を入れてみようと思いました。それは、今の日本を語るときに、清算していない過去の戦争犯罪を避けて通ることはできない。そのうちの一つがインパール作戦であると。つまり今回は、登場人物を生かすために原作から離れたということです。
ただ、原作の雫井脩介さんから「三つだけお願いできますか」と言われたことの一つが、「最後に沖野に叫ばせてほしい」ということでした。言われてみれば、確かにその通りだなと。沖野がどういう意味で叫んだのか、という点では解釈が分かれるでしょうが、あれで映画が締まりましたから。
-監督は、『関ヶ原』のときに、「(黒澤明監督の)『七人の侍』(54)にいかに近づけるかを考えた」とおっしゃっていました。その意味では、今回は、同じく黒澤監督の『悪い奴ほどよく眠る』(60)と『天国と地獄』(63)を意識したのではありませんか。
とても意識しました。極端に言えば、タイトルに『悪い奴ほどよく眠る』と付けたかったぐらいです(笑)。また『天国と地獄』は今回も事前に見直して、この映画に、そのニュアンスやトーンをどう取り入れられるかを考えました。『天国と地獄』を今見て感心するのは、役者のバリエーションと深みです。当時の一線級の舞台役者が新聞記者や捜査陣になって出ています。その点でも捜査会議が出てくる映画の最高傑作だと思います。ですから、あの映画ほどの時間はかけられないにしても、できることはあるのではないかと思い、かなりリサーチをして、今の時代の捜査会議のリアルさを追求しました。
また、歴代の映画で検事を描いた名作はないと思っていたので、検察物の代表作を作りたいと考えました。日本の社会の中における検事とは何かということをテーマに、リサーチをする中で、いろいろな検事や、ヤメ検(検事を辞めて、その後弁護士になった人)たちとも知り合ったので、この映画を作っているときは、検察側の視点を共有して作ることができました。
-今回も、松倉役の酒向芳さん、闇のブローカー役の松重豊さん、刑事役の谷田歩さんら、脇役がとても魅力的でした。脇役を生かす、という点にこだわりはありますか。
それは他の監督よりもあると思います。そこも“黒澤明人類講座”から学んだことです(笑)。黒澤監督は、各作品ごとに全てのキャラクターをゼロから作っています。例えば、志村喬さんをよく使うからといって、いつも同じような役ではない。役ありきでやっています。
僕自身は、普段映画や舞台を見る中で、「あっいいな、一緒に仕事がしたいな」という役者さんをリストアップしています。その意味では、松重さんも、酒向さんも以前から注目していました。今回、酒向さんはオーディションに来たのですが、ずっと舞台で見ていたので、実際はああいう髪形だとは知りませんでした。それで改めてオーディションで見て、「これは松倉だ」と即決しました。松倉は、見る人が「この人誰?」と思う中で、すごみが出てくるような役です。日本のワルの伝統を踏まえて、どちらに転ぶか分からないというような人間にしたかったんです。その意味では、今回はいいところにいい役者が入ってくれました。
-この映画は、監督の映画の中ではどのような位置付けになるのでしょうか。
時代劇や歴史物の合間には、現代に戻って、今の自分が考えていることや、日常に起きている怖いことを描きたいと考えています。そういう意味では、タイミングよくいい原作と巡り合えたと思っています。
-最後に、DVDでこの映画を見る観客に向けて一言お願いします。
ホームシアターで見ていただくと、画面の構図などを含めて、いろいろなことをチェックしてもらえると思います。これは犯罪映画ですから、一つの流れがありますけど、その中でも、例えば伏線や遊びの部分、衣装の色なども確認していただけたらと思います。DVDには、僕と木村さんと二宮くんによるビジュアルコメンタリーが収録されているので、3人の“内幕ばらし”も(笑)、楽しんでいただけたらと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)