今回のキニナル「しょうゆ きゃふぇ」は、山手のフレンチレストラン「エリゼ光」の六川光シェフが名乗りをあげ、2014(平成26)4月にこの場所にオープンしたカフェである。
「とにかく『エリスマン邸』というキーワードがあってこその私たち。その中にあるから、私たちが存在感を出せるんです」と語るのは、取材に対応してくださったマネージャーの藤野恵子さん。
実は以前に「エリスマン邸」でカフェ運営を募集していた際、書類選考に落ちた経緯があるという。それでも諦めずに再応募をしてこの地を射止めたのは、この緑と光のテラス席が六川シェフの提唱する「ナチュラルフランス料理」の考え方にぴったりだったから。
フランスの三ツ星レストランで腕を磨いたシェフがたどり着いた「ナチュラルフランス料理」。それは、素材そのものの味を大切に伝える料理だという。
六川シェフは、使用する素材には徹底したこだわりを見せる。
最近でこそ「地産地消」という言葉がよく使われるようになったが、六川シェフは「エリゼ光」を開業した1999(平成11)年より以前、20年近く前からずっとそのことにこだわり三浦半島の漁港や畑に足繁く通っている。
「本当に365日。週に一度の休みの日も、寝る間を惜しんで産地へ足を運んでいます」と藤野さん。
現地を訪れ、漁師や生産者の想いを知り、巡りあう最高の素材。そこから生み出される六川シェフの料理。
「しょうゆ きゃふぇ」の店名の由来ともなっている「醤油パン」も、そんな偶然の出会いから六川シェフがインスピレーションを受けて作り上げたオリジナルのパンである。
ナチュラルフランス料理から生まれた絶品醤油パン
「醤油パン」のアイデアは、静岡県御殿場市の老舗醤油メーカー「天野醤油株式会社」との出会いがあったから生まれたものだ。ワサビを求めて訪れた御殿場の地。その地を走らせていた車の中から偶然見つけた小さな看板、それが「天野醤油」の看板だったという。
アポなしの突撃訪問。それがたまたま全国醤油品評会で日本一になった醤油を作っている工場だったというから、本当に出会いとはおもしろいものだ。
「醤油パン」は、天然酵母の含まれる醤油のもろみをパン生地に使用し、さらに二度仕込みした「甘露しょうゆ」をパンの表面に塗って焼き上げられる。
二度仕込みの醤油とは、醤油を作る際に使う塩水の代わりに従来の製法で作った醤油を使って仕込んだ醤油のこと。塩水の代わりにしっかりと熟成した醤油を使っているため、味にコクと大豆の甘味が感じられる。
もろみは醤油の命とも言える大切なもの。それを分けていただくのは、簡単なことではなかった。
何度も断られて、ようやく譲り受けた大切な天野醤油のもろみ。それなくして、六川シェフの「醤油パン」は作り得なかったと藤野さんは言う。
お店で提供される「醤油パン」はオーブンで軽く温めた状態のもの。
テーブルに運ばれると、醤油の香ばしい香りが一面に広がり・・・
思わずパンに顔を埋めてしまいたくなるほどだ。