今年は戦後70年という節目の年に当たる。そんな中、原田眞人監督が終戦前夜の実話を再映画化した『日本のいちばん長い日』が公開中だ。
1945(昭和20)年7月27日、アメリカをはじめとする連合国はポツダム宣言を発表し、日本に無条件降伏を迫った。降伏か本土決戦かを決するための閣議が連日行われるが、結論が出ない中、広島と長崎に原爆が投下され、ソ連が対日参戦する。8月14日、昭和天皇の「ご聖断」のもと、ついに降伏が決定し、天皇は終戦を告げる肉声(玉音)を録音するが、本土決戦を主張する陸軍の若手将校たちはクーデターを画策する。
この一連の出来事は、1967年に岡本喜八監督と三船敏郎をはじめとする東宝のオールスターキャストによって映画化された。画面はモノクロ、しかもスタッフ、キャストの多くが戦前、戦中派だったこともあり、ドキュメンタリー的な要素を強く感じさせる映画となった。また、玉音の録音シーンと飛行場を飛び立つ特攻機の姿を並行して描くなど、戦前、戦中派の終戦に関する屈折した思いもにじませた。
対して本作は、ほぼ戦争を体験していない世代のスタッフやキャストによって作られている。彼らにしてみれば、現代との思想的な背景や言葉遣いの違いなども含めて、もはや歴史劇や時代劇を作るような気持ちだったのではあるまいか。
もちろん、ただ旧作をなぞるだけでは新味はない。原田監督はナレーションを廃した代わりに終戦の4カ月前から話を始めて前後の関係を説明、またテンポの速い編集を施してスピード感を出すなど、戦争を知らない世代なりのこだわりを持って一連の出来事を描いている。
中でも、特筆すべき点は、かつては映画に登場すること自体がタブー視された昭和天皇を、生身の人間として真正面から描き、主役の一人としたことだ。これによって、昭和天皇(本木雅弘)と鈴木貫太郎首相(山崎努)、阿南惟幾陸相(役所広司)との信頼関係を軸に終戦を描くという新たな視点が生まれた。
また旧作の主要女性キャストは新珠三千代ただ一人だったが、本作では重要な役で複数の女性が登場する。天皇と女性の描き方が本作と旧作との最も大きな違いだろう。そこには40数年という時代の変化が感じられる。
過去の出来事を、その結果を知っている後の世代が批判するのは簡単だ。本作で描かれた遅々として進まない閣議、本土決戦を叫ぶ青年将校たちの主張などは、今の目から見れば理解し難い面もある。だが、本作に登場する実在の人物たちは、それぞれの立場で国の未来を思い命懸けで行動した。そのことだけは紛れもない事実である。
本作には「戦争を始めるのは簡単だが終えるのは大変だ」というせりふがある。そこには、だからこそ二度と戦争を起こしてはならないという強い願いが込められているに違いない。過去を振り返る意味でも、戦後70年を迎えた今だからこそ見るべき映画だ。(田中雄二)