“森の描写”へのこだわり

『もののけ姫』は、アシタカをはじめサン、エボシ御前らが登場し、自然と人間の共存について、深く切り込んだ物語となっています。

人間や自然の生き死をリアルに描いたことで注目された同作ですが、また、舞台となった森の描写についても、力を入れた作品となっています。というのも、ジブリ作品に関わる5人の美術監督が集結し、あの森を描いたのです。美術監督が5人も集まるなんて異例のこと。

それほどこだわった森の描写。この森を描くために、自然が多く残る世界遺産・屋久島を訪れたことは有名な話。サンとイノシシの乙事主が走る森は、屋久島の白谷雲水峡を参考に描かれています。

同書では、美術監督の座談会を収録。このロケハンと森の制作について語っています。

現地で多くの写真を撮るので、てっきり制作時にそれを見ながら描いていくのかと思っていたのですが、どうやら違うようです。写真は現地の雰囲気をつかむだけであって、見たままで描くことはありません。なんと。写真から絵をおこすだけでも大変なのに……。では一体、彼らは何を描いているのでしょう。

「僕らの仕事はあくまで宮崎さんの中にあるイメージを絵にすることですから」と語るのは、『海がきこえる』の田中直哉監督。どうやら忠実に絵をおこすのではなく、宮崎監督の感覚を想像し、絵に落とし込むのが彼らの仕事。

『天空の城ラピュタ』の山本二三監督が、屋久島の写真を参考に描いていると、「これはもう病んでいる森。太古の森は隙間がないんだよ」と宮崎監督から注意されたよう。想像以上に難しい仕事です。

森の他にもタタラ場は同作の舞台として重要な役割を担っていました。ここを描くために宮崎監督が出したオーダーは、「あそこは自然界の中でそこだけ人間が住みついている異物のような、腫瘍みたいなところなので、イメージ的には荒れはてた山肌という感じで」というもの。

皆さん、宮崎監督のイメージをうまく絵にすることはできますか

こういった話を聞いていると、ジブリの制作には非常に高度なテクニックが必要ですし、それを表現しきれる優秀なスタッフが揃っていることがわかります。

美術も物語も印象に残るジブリ作品『もののけ姫』。同書を読んでいるとまた、同作品を鑑賞したくなってきました。そのときは、タタラ場をじっくり観てみたいと思います。

【参考書籍】
『ジブリの教科書10 もののけ姫』文藝春秋