みんな「ダダ漏れ」に疲れちゃったんじゃないかな、という空気はある。
――2010年くらいに「ダダ漏れ」が流行語になっていた時期がありましたね 。
松永:それこそ神聖かまってちゃんも最初の数年間は舞台裏やメンバー同士の喧嘩も炎上も全部表に出してましたけど、みんな「ダダ漏れ」に疲れちゃったんじゃないかな、という空気はある。震災も関係しているでしょうね。
ネット上のものは全部タダになっちゃって、逆に自分が何を価値基準に生きているかわからなくなっちゃうというか。お金を使うって商品の価値を評価することですから、何でもタダになり始めて、そもそも自分が何を評価しているのか自分でもよく分からなくなってきた。それはアイデンティティの喪失にもつながる。そういったインターネットの趨勢と音楽シーンはリンクしているのでは。
僕も一昨年くらいまではニコ生ないしツイキャスをやってたんですですけど、これは自分たちにとってプラスにならない、「薄まる」なと思って、ほとんど辞めました。ニコニコもプレミア会員やブロマガなど、クロージングした上でのマネタイズの比重を増やしましたよね。
――あえて閉じていく、でもある程度入り口が確保されてないと難しいと思うんですよ。情報を絞るといっても、今現在の「アーバンギャルド」という名前の知名度あってこそ、アーバンギャルド自体がインターネットとともにあるバンドというか、mixiだったりyoutubeだったりを積極的に使っていたバンドという印象があるんですよ。
松永:確かに。Yahooのネット投票で最初に名前が出たバンドですからね(※07年、アーバンギャルドはYahoo!ミュージック・NEXT MUSICの共同企画オーディション【WHO'S NEXT?】にノミネートされた)。でもそれやり過ぎると「ファンです!いつも観てます!YouTubeで!」っていうファンが増えちゃうんですよ(苦笑)。
それだとブランディングできてないわけで、結局のところお金にならず、プロミュージシャンとしてやっていけない。自分たちのブランドを下げてはいけないなあと。
かつては音楽自体が20世紀後半の日本では最もポピュラーなエンタメであったけれど、今となってはエンタメの一ジャンルに過ぎなくなっていますよね。ソシャゲとか配信とか色々ある中の一つ。
90年代はカラオケがコミュニケーションの手段で、歌がモテの道具だったわけだから「シングルCDを買わないと友達についていけない」という空気すらあったあの時代のほうが過剰で病気だったとも言えますけどね。
――CDが「売れすぎ」で批判されていた時代ですからね。しかもそれ、もう20年近く前の話になっちゃうんですよね。
松永:だから最近流行りの音楽の定額配信サービスには興味があるんですよ。ビジネス的なところもですけど、聴取環境のことはどうなっていくのかなあと。新しいところに連れて行ってくれるのかと。
昔はCD買って歌詞カードを読んで、その曲と歌詞と、アートワークだってリンクしてたわけですよね。
ストリーミングサービスで流し聞きしてるとそれがそのミュージシャンのどの曲かがわからないんじゃないかなあって。BGM化が進んでしまうというか。
――AWAやLINE MUSICは歌詞出るんですよ。
松永:えっ?ホントに!AppleMusicは出ませんよね。
――これLINE MUSICなんですけど…(LINE MUSICを立ち上げてアーバンギャルドの歌詞を見せる) 。
松永:あ!これはちょっと希望が持てたかなあ。
――着うた配信でも歌詞出てるところは出てましたけど、要はCDパッケージ1枚が作品として捉えられていた時代から、配信で1曲ずつになり、今度は「聴き放題」になったことでどんな変化が生まれるかっていうことですよね。
松永:そこで必要なのはアーティスト自身が自分たちの場所を積極的に作っていって、ファンを引き込んでいくルートを作ることですよね。
ネットの世界でたいていの音楽は手に入る、なんでもわかるっていうところから遠ざけるというか、検索するより足を使わせる。
――でも完全に閉じてしまうと「知るきっかけ」を逃してしまうというか。松永さん自身「良い曲を作っていれさえいれば自動的にリスナーに届く」ということを信じているタイプのミュージシャンではないでしょうし。