人生の先輩として、子どもへの寄り添い方

東大理IIIの3兄弟はやはり多くの読者が共感するのがよくわかる。母親の子どもへの寄り添い方が徹底的なのだ。

高校卒業をして、晴れて親の監視下から少し羽を伸ばせるようになる大学時代。遊びたい盛りの時期に「勉強に打ち込め」「目の前ではない、生涯にわたり自らを高め、かつ人の役に立つことのできる職に就くような目標を探せ」といってもなかなか厳しいだろう。

人生の先輩として、この母は”楽しい大学時代に人生の目標を見つける時間は(勉強や自分の遊ぶ時間を考えると)捻出しにくいだろう“と考え、大学に入った後も目標に向かって走っていけるレールを敷いたのだろう。

東大理IIIへいけば、医者になる。医学を研究する。そんなレールがうっすらと引かれているからこそ、子どもたちは私生活も楽しみながら、目的に向かって必要なときは全力疾走し、しかも将来的にも人から「ありがとう」といわれる職業に就く切符を手にすることができるのだ。

そう考えるとこの東大理IIIのママ、相当なやり手ではないだろうか。
人生の先輩としての親が、子どもが独立するまで失敗することのないレールや目標設定をさりげなくしているのだ。そしてしかもそのレールに従って子どもが頑張れば、高学歴という看板はもちろん、高収入・好感度といったものまで付いてくるのだ。

高学歴だろうがなかろうが、ゴールは大学入学ではない

前述した早稲田卒の彼はその後どうなったのだろう。

実はブラック家庭に生まれ貧困とネグレクトにあえぐ中、自分の人生を何とかブラックな状態から取り戻そうと孤独に戦っていた彼。彼には残念ながらそっと手助けをしてくれるような親はいなかった。

だからこそ自らの力で早稲田入学をしたのち、初めて手にした自由と自分だけのお金という魔力に負けてしまった。

人生を俯瞰して見た時に大学時代という有意義な時代に、何かしらの目的や目標をもって過ごすことの大切さを彼に誰も伝えてくれなかった。

また、彼自身も積極的に情報を得ようとしたり、交友関係を広めることもなく、ひたすらバイトに明け暮れお金を稼げばなんとかなる、という即物的な考えで日々を過ごしい、気が付けば目の前の魅力的な話に飛びつきブラック企業に堕ちて行った。

ブラック家庭で生まれ、ブラック人生から抜け出そうとしたのに、またブラック企業を渡り歩くことになった彼。

学歴はあったにこしたことはないだろう。学歴だけはお金で買うことはできない。自らの努力の上で手にしたものだ。

しかし、結局は高学歴だろうがそうでなかろうが、ゴールは大学入学ではなく、その後も自分がどう生きていきたいか、という目標を見つけることができるかどうかなのだろう。

早稲田卒という高学歴の看板を手にし、14職種にも及ぶ様々なブラック職を渡り歩いた円山嚆矢。彼は最終的に人生の目標を見つけ、手にした高学歴という看板を生かすことはできたのだろうか…。

『早稲田出ててもバカはバカ』
円山 嚆矢 著/発売中