本田翼に北川景子、中谷美紀、オスカー女優のヘレン・ミレン、ヒラリー・スワンクなどセクシーなドレスや艶やかな着物に身を包んだ国内外の女優、俳優、有名監督たちが次から次へとレッドカーペットに姿を現し、そのたびにカメラマン席から凄まじい数のフラッシュが焚かれる。

10月22日(木)に開幕した「第28回東京国際映画祭」。

9日間にわたって様々なイベントが開催されるが、なんと言っても最も大きな盛り上がりを見せるのが、国内外のゲストが一堂に会し、レッドカーペットを歩く初日のオープニングイベントである。

今年は、昨年を超える440名のゲストがレッドカーペットに登場し、695名もの報道関係者が詰めかけた。

TVや新聞、ネットニュースで報じられる華やかな舞台の裏には、この日本映画界最大のイベントを取り仕切る、プロの広報マンたちのプライドを懸けた奮闘があった。

年に一度の「日本の映画界のいちばん長い日」――。この煌びやかなセレモニーの陰でどのような手に汗握る攻防があったのか? 広報チームの人々に密着し、その舞台裏に迫った。

午前10時。

複数の映画宣伝会社の社員や映画のパブリシスト二十数名で構成される「広報チーム」の打ち合わせが始まった。

彼らのこの日の仕事はオープニングのレッドカーペットイベントの運営、特に国内外から集まる報道陣の対応である。

打ち合わせの中心にいるのは宣伝会社「東宝アド」の宣伝マン・篠原由紀夫さん。

映画宣伝マンとしては10年以上のキャリアを持ち、普段は主に東宝配給の大作を扱うことが多く、これまでスタジオジブリ作品など数々のヒット作を担当してきた。

他のメンバーも、それぞれ百戦錬磨のパブリシストたちで、普段は個々に担当する作品の宣伝の企画や舞台挨拶、記者会見の運営などを行っている。そんな彼らが集まり、この日本最大の映画祭のために「広報チーム」が結成されているのだ。

打ち合わせでは、会場となる六本木ヒルズのアリーナにおける人員の配置、報道陣の誘導などについて情報が伝達される。

ちなみに、イベント開始は15時、報道陣の受付開始は13時だが、カメラマンの取材位置は先着順となるため、午前8時の段階ですでに、六本木ヒルズ49Fの受付場所には報道陣の列ができている。

とにかく、通常の舞台挨拶や記者会見とはイベントの規模、集まる人々の数も比べ物にならないため、いつ誰が、何を行うのか、打ち合わせの段階でできるだけ細部にわたって詰めていく。

もちろん、彼らが顔を合わせるのはこれが初めてではない。

すでに事前に週に何度も会議が行われているのだが、とはいえ、普段から各人、担当の宣伝作品を持っており、多忙を極めていることもあって、なかなか全員が揃うことはない。

ましてやイベントは生き物。決して予定通りに進むことはなく、必ず不測の事態が発生するもの。

そうしたことも織り込みつつ、少しでも不安要素を摘むべく、この当日の朝の最後の打ち合わせで細かい確認が行われた。

打ち合わせが終わり、それぞれのスタッフは各々の作業、事前の準備を開始する。

正午前、篠原さんはイベントの設営準備が進む六本木ヒルズのアリーナへ。

ここでイベントの設営スタッフ、公式のカメラマンと話し合い、レッドカーペット上の映画祭のロゴの位置を決定する。

長いレッドカーペットの中で、カメラマンやTVクルーの取材のポイントは複数存在する。

最初にゲストが到着するレッドカーペットの始点、“サウンドバイツ”と呼ばれる、各局のTVクルーのインタビューに応じる中盤、最も多くのカメラマンが集まり、“フォトコール”が行われるポイント、アリーナ中央のメインステージなどに分かれるが、各ポイントの中でゲストたちにはどこに立ってもらうのか? 

その際、レッドカーペット上の映画祭の巨大なロゴは、どの位置にあるのが最も効果的なのか? 

篠原さんはレッドカーペットを何度も往復し、細かく位置を確認し、決定していく。

続いては、ゲストを運んでくる車の停車位置についての打ち合わせ。

この車にも映画祭のロゴがペイントされており、カメラマン席から見てどういう配置で車が停まるのが最も美しく見えるのかを協議し、決定する。

ちなみに車は1台とは限らない。作品ごとのゲストの人数によって2台、3台となる場合もあり、決して広くはないスペースにどう停車させるのか? どういう段取りで入り、ゲストを降ろして出て行くのか? 細かい部分ではあるが、実は重要なポイントなのだ。

ようやく位置が決まったところで、脇に控えていた設営スタッフが、まだカーペットの敷かれていなかった舗道部分に本番用のカーペットを敷き詰めていく。

運営の時間の都合上、事前に準備は進めつつも、実際に設営ができるのは本番直前の限られた時間だけであり、急ピッチで作業が進むが、ここにもプロの職人たちの技術が光る。