スマートフォン(スマホ)などモバイル機器向けゲームコンテンツやソフトの企画・開発・販売を手掛けるGAE(旧グローバル・A・エンタテインメント)は、2015年5月に中国で子ども向けネット教育やゲーム事業を展開するTalkwebの子会社で上海に本社を構えるHRGに買収され、HRGの完全子会社になった。中国企業の傘下入りを決断した大友貴司社長は「座して死を待つより、中国市場に飛び込んだことで展望が開けた」と語る。4年前に数億円だった売上高は、19年3月期に約10倍に大化けした。IT業界で活発なM&Aの中でも、中国企業に買収されるケースが増えている。当事者に話を聞いた。


取材・文/細田 立圭志 撮影/松嶋優子

スマホゲームで世界トップの中国ゲーム市場

ここ5年で中国のゲーム市場は急速に膨張した。最初のきっかけはPCのオンラインゲームだったが、最近ではスマホが一気に普及したことで、スマホ向けゲームアプリの市場が急拡大した。

約2兆円、ゲーム人口6億人ともいわれる中国のスマホゲーム市場は、2、3年前に米国を抜いて世界トップの市場に躍り出た。今や中国は、ゲーム開発やコンテンツの供給源で、メイド・イン・チャイナのアプリが日本に逆輸入されて、そのゲームを日本のユーザーが楽しむケースは珍しくなくなった。

「スマホゲームのタイトルのトップ100のうち、30~40本は中国や韓国でつくられたゲーム」と大友社長は話す。ゲームビジネスは、中国を抜きに語れないものへと変貌したのだ。

アニメやゲームが日本のお家芸だと思っている読者は少なくないかもしれない。確かに、中国で日本のアニメやゲームは相変わらず人気だ。だが、日本のゲームが好きだからこそ、版権を取得して、自分たちでコンテンツをつくる動きが活発になっている。

例えば中国の国民向けアプリの開発でも、キャラクターの声は日本人の声優が日本語で話し、わざわざ中国語の字幕に翻訳するなど、いかに日本のクオリティーに近づけられるかを競っているという。

海外市場に活路を見出す

もちろん、GAEが中国企業に買収された5年前は、今のように市場が盛り上がることは想像できず、混とんとしていた。単純に、中国企業の子会社になることに不安はなかったのだろうか。また、20年以上前に独立して創業した自分の会社が、中国企業の傘下になることに抵抗感はなかったのだろうか。

大友社長は持ち前の明るい笑顔を交えながら「中国で合弁や出資を受けても、うまくいってない日本のゲーム会社の話をよく耳にした。しかし、うまくいってないのなら、逆に自分がそこでうまくやれば先鞭をつけられるのではないか。座して死を待つぐらいなら、思い切って懐に飛び込もうと思った」と振り返る。

逆張りの発想である。確かに、皆が成功している領域に飛び込んでも、そこでの競争は熾烈になるばかりだ。他が失敗している中で成功すれば、一気にリードできるし、他社との差異化にもつながる。

GAEは、主に三つの事業を展開する。一つは、コンシューマゲーム向けソフトの企画や開発・販売や他社製品を販売する「コンシューマ事業」、次にスマホやPC向けコンテンツの企画・制作・販売の「モバイル・オンライン事業」、最後が自社製品や他社IPの海外へのライセンス販売や海外アプリの日本での配信を行う「海外事業」である。今期の稼ぎ頭は、親会社のHRGのアプリのパブリッシングと海外ビジネスだった。

GAEの創業時は社員15人ほどだったが、多い時は50人ぐらいになったこともあった。まだコンシューマ向けのゲーム機器が主流で、その周辺機器などの企画・開発・販売も手掛けていた。

「当時はニッチなゲームでも店頭にパッケージが並んだら売れた。しかし、ゲームアプリになってから売れるか、売れないかの二極化が進み、ニッチで稼げた領域も縮小していった。パッケージのモノ売りから、アプリは無料で配信し、課金で稼ぐなどビジネスモデルも大きく変わった」と大友社長は、先行きに不安を覚えたという。

M&Aを考えたのは、そんな閉塞感を打ち破るためでもあった。パラダイムシフトというM&A案件のパートナーから中国企業のオファーを紹介されたという。迷いがまったくなかったといえば嘘になるが、上海のHRGの社長と通訳を通して話した際、「コンテンツをコピーするような会社ではないことなど、話の内容から誠実さが伝わった」こともあり決断した。

中国企業とうまく渡り合うコツは

こちらから出資したり、業務提携という選択肢もあったと思うが、それについて大友社長は「日本企業が中国企業に出資するのは規制もありハードルが高い。業務提携だと、お互いに綱の引き合いになり利益の分配に関する問題が起きる。だから中国から出資してもらった方が、うまくいくと判断した」と語る。

資金繰りも楽になった。ゲーム業界の企業経営は毎年のようにポートフォリオが組み変わるため、銀行やファンドからの借り入れに奔走するケースもしばしば。中国企業から出資を受けられれば、資金繰りが楽になる分、ビジネスに集中できる。

HRGが150人という中堅の規模だったことも大きいという。中国のモバイルゲーム市場はテンセントとネットイースの2社が約7割を占める。圧倒的な大手企業に買収されたらのみ込まれるが、中堅規模だったことで良好なコミュニケーションがとれているという。

自分で創業した会社が買い取られることへの抵抗感については「親会社からものをいわれるのが嫌なら、M&Aは無理ですね」と一蹴する。

「出資してもらっている以上、グループの方針に従うのは当然。だた、自分たちの持ち味や特徴をどう説得しながら出していくかが大切。幸いにも国内のビジネスは任せてもらっている。1をいかに10にするかで苦しいと思ったことはない」と語る大友社長。相手に自社の特徴を説明して納得してもらうのは、相手がどこの国の企業だろうと同じ。それよりも、大きなマーケットで可能性を広げることの方が魅力的だったのだ。

今後は、自ら企画・開発したコンテンツを中国市場で配信するという夢も抱けるようになった。M&Aをしていなかったらとの質問には「大手の一ラインとして受託で日々の業務に追われながら細々と事業を続けていたのではないか」と語る。

環境を大きく変えることで、自ら変わらざるを得ない環境に追い込んで順応していく。従来とはスケールの違うビジネスを構想することができるようになった。