一度聴いたら忘れられない、というのは優れたポップスの第一条件とでも言うべきものだが、これはすごい。

今年デビュー10周年を迎えたORANGE RANGEが、現在特設サイトで無料配信中の『Anniversary Song~10th~』。「♪オレンジレンジは10周年」のフレーズ――確かに一度聴いたら忘れられない。事実この数日間、耳からこびりついて離れない。なんなら鼻歌だって歌い始めているほどだ。途中で出てくる「♪10周年(ハイ)10周年(ハイ)オレンジレンジは10周年(ハイ)」のくだりも相当ずるい。バンドの10周年という記念すべきタイミングで、このふざけようである。相当肝の据わった遊びっぷり。これでこそORANGE RANGEだ。

4月18日(水)にリリースされる、ORANGE RANGEのニューアルバム『NEO POP STANDARD』。本作が「バンド史上初となる全曲打ち込み主体のエレクトロスタイルの作品となる」という情報を事前に聞いたとき、バンド10周年のめでたいタイミングだし、四つ打ち全開のアゲアゲなナンバーを連打してくるのかと思っていた。そして実際聴いてみて、確かに踊れる曲も多いが、ではアッパーなお祭りアルバムかというと、そういうわけではない。では逆に10年の重みを感じされる、地に足の着いた重厚な作品なのかというと、それも全然違う。

ORANGE RANGE『NEO POP STANDARD』初回限定盤

そもそもORANGE RANGEというバンド自体が、どこまでもつかみどころのないバンドである。むしろそのつかみどころのなさ、ルール無用のフリーダムさこそがORANGE RANGEのアイデンティティだとするならば、これほどまでにORANGE RANGEらしい作品もないのかもしれない。バンドの新たな宣誓にも聴こえる『Restart』、人を食ったようなスカスカのサウンドが中毒度大の『Subway』、野外フェスで聴きたいアッパー・チューン『Hello Sunshine Hello Future』、早朝の澄んだ空気感を表現した音色が心地良いミドルナンバー『Morning View』、ポップなメロディと片思いの心情を綴った歌詞が超キャッチーな『Baby Baby』など、じつに多彩な楽曲が並ぶ。こちらが実像を掴もうとすると、フワフワとかたちを変えてすり抜けてしまい、どこに連れていかれるかわからない。そんな、なんとも不思議な聴き心地のアルバムを10周年にドロップし、そこに『NEO POP STANDARD』と名付けるセンスが痛快だ。

そんな彼らのもうひとつのアイデンティティ、それは冒頭の『Anniversary Song~10th~』動画に象徴される“遊び”の部分である。彼らほどメジャー・フィールドを舞台に音楽で遊ぶことに真摯に向き合ってきたバンドも珍しい。特に彼らと同世代のバンドの中では、貴重な存在なのではないだろうか。作品、テレビ、ライブ、どんな場所でも彼らは遊ぶことを忘れない。その一貫した姿勢は私たちをおおいに盛り上げてくれるが、たまにエンタテインメントの枠をはみ出して、まるで見えない何かと戦っているような凄みを感じる瞬間がある。アルバムのラストを飾るのは、冒頭で紹介した『Anniversary Song~10th~』。この挑戦的なアルバムを聴き進めた最後にこの曲を聴くと、ゲラゲラ笑いながらも、不意打ちの右ストレートを食らった気分になる。ORANGE RANGEは10周年のアニバーサリーに浮かれるでも落ち着くでもなく、デビュー以来音楽シーンの常識や固定概念をぶち壊してきたファイティングポーズを、このアルバムでもまったく崩していない。『NEO POP STANDARD』は、デビュー以来10年間彼らが続けてきた“本気の音楽の遊び”の最新形なのだ。そう、決して集大成ではなく、あくまで最新形であるところが、またORANGE RANGEらしい。

カッコいいとか盛り上がるとか面白いとか、いい作品を表現する言葉は色々あれど、個人的にこの作品には“美しい”という言葉が相応しいと思う。清々しくて風通しが良くて、色で例えると無色透明。聴き手の想像を超えてどんな色にも染まっていきそうな、一本筋の通った美しさを持った作品だ。ただ、彼らでしか成し得ないユニークな筋の通し方であり、非常に奇妙なフォルムをした美しさではあるけれど。