調子にのってホッケ、たこ刺しなどを連打する。
二十歳そこそこの勤労学生に立派なオトナの酒の飲み方をアピールしたい下心だ。
店の奥では日活顔のマスターが料理を作り総菜を補充する。
BGMはプロ野球中継だ。
二台のでかいテレビが設置され、どこに立っても見えるようになっている。
そして店のすみには大小のジャビット君のぬいぐるみ。
壁を見やると番長清原のサインまである。「魚屋よ蔵さんへ」と書いてあるが、
来店したわけではなく常連さんからのプレゼントらしい…。
そうだ、すっかり忘れていた。
こちらのマスターは(多分一家まるごと)はジャイアンツファン。
メニューのすみっこにもさりげなくジャビット君があしらわれている。
しかし、「巨人ファン酒場」と全面にうち出していないところが油断ならない。
中日対巨人の今夜のゲームは、巨人が苦戦を強いられている。
中日が加点するたび皆が「ア~アっ」とため息をつきながら、酒を飲む。
野球にはうとく、でも強いて言えば関西出身なので阪神ファンあるいは中日ファンの私だが、
ここはすみやかに巨人ファンになりすまし熱心にテレビを睨む。
巨人選手がホームラン一発打つごとスタンプを一つ押してくれる「ホームラン券」
(10個で1ドリンク)があると聞けば、いつでも寝返る覚悟だ。
しかし6回の裏あたりで中日の勝利が色濃くなったとたん、
なんとなくお客たちはいっせいに試合はうっちゃり飲め飲めムードが漂い始めた。
もっとも長っ尻をしているのは、地元の兄ちゃん。
「ここのトマト割り飲んでるからすこぶる体調がいい」のだと言いながら
ハンサムボーイが笑顔で運ぶトマト割りを、栄養ドリンクを注入するがごとく開け続けている。そこに入れ替わり立ち代わり、地元の同世代仲間が合流する。