撮影:岸隆子(Studio Elenish) 撮影:岸隆子(Studio Elenish)

7月27日、宝塚歌劇月組の梅田芸術劇場メインホール公演ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN(オン・ザ・タウン)』が開幕した。20世紀を代表する指揮者・作曲家のレナード・バーンスタインが20代だった1944年、同い年の振付家ジェローム・ロビンスとタッグを組んだ衝撃作。後に『ウエスト・サイド・ストーリー』を生み出すふたりの才能の片鱗が煌めく出世作だ。

宝塚歌劇月組 梅田芸術劇場メインホール公演 ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN』チケット情報

「恋だ!」「観光だ!」と24時間を期限にニューヨークに上陸した水兵3人の恋の珍道中を描いた物語。潤色・演出の野口幸作が現代性を盛り込んだ新演出、新振付で活気溢れるドラマに再構成する。水兵トリオには、トップスターの珠城りょう、本作で月組カムバックを果たす鳳月杏、そして暁千星。ヒロインをトップ娘役の美園さくらが務める。

全編を通して感じるのは、圧倒的な音楽の素晴らしさだ。<♪ニューヨーク ニュヨーク 憧れの街!>と冒頭からトランペットが勢いよく破裂音を響かせ、観客の心までいやおうなく弾ませる。ニューヨークガールたちの群舞は躍動感と色彩に溢れ、劇場を瞬時に都会の喧騒と華やかさで包み込む。その後も1曲ごとに起承転結のドラマがあり、まるでオムニバスのドラマをみるよう。感情の起伏を視覚化するようなダンスはスピーディーかつ個性的で、トリオやソロで届けられる歌声はアップテンポなラテン調あり、交響曲のように優美なバラードあり。さらに、タカラジェンヌたちの客席降りや本編後にはショーまで付いて、五感を満たす宝塚ならではの演出に大興奮間違いなしの約3時間だ。

三者三様の恋模様も楽しい。“野獣担当”の鳳月杏は本能的な愛の一撃を食らわせ、応じる人類学者役の夢奈瑠音(海乃美月と役替わり)は理性が崩壊した瞬間が見もの。暁千星は恋に奥手な年下男子をキュートに好演。彼を翻弄する強気なお色気タクシードライバー役の白雪さち花(夢奈瑠音と役替わり)は、難曲を歌い上げる歌唱と表現力が圧巻。そんな妄想やデフォルメされた場面が多いなか、作品の軸を担うのが主演の珠城りょうだ。心情溢れるバラード「孤独な街」「神様の奇跡」を感動的に歌い上げ、一目惚れから始まる正当派の恋模様を丁寧に紡ぐ。ヒロインの美園さくらは美脚が映えるバービースタイルで、歌やダンスを可憐に披露。真面目が過ぎて笑えるなどコメディエンヌとしても新境地を開く。他にも個性的な役柄が続々登場。ハプニング続きの展開からも目が離せない。

底抜けに明るいラブ・コメディだが、第二次世界大戦中に開幕した初演当時を思えば、また違った感慨にも襲われる。つらい現実をひととき忘れさせる、エンタテインメントの底力を思わずにはいられない。名作に触れられるまたとない機会だ。公演は8月12日(月)まで梅田芸術劇場メインホールにて上演中。チケット発売中。

取材・文:石橋法子