2015年に藤間勘十郎演出・振付の新作舞踊劇『葛城山蜘蛛絲譚』を上演したKAAT神奈川芸術劇場の“KAAT次世代への古典芸能プロジェクト”若手舞踊公演「SUGATA」。衣裳・化粧なしの素踊りながら、故・中村富十郎の長男・中村鷹之資と中村松江の長男・中村玉太郎が大奮闘し、勘十郎、尾上菊之丞ら踊りの名手が脇を支えた公演は大評判を呼んだ。その第二弾として、新作『新説西遊記~猪八戒と沙悟浄~』が上演される。前回に続いて鷹之資、玉太郎が登場するほか、中村梅玉の部屋子・中村梅丸が出演。公演に先立って記者懇親会が開かれ、勘十郎、玉太郎、梅丸が出席した。
「『新説西遊記』では鷹之資くん扮する猪八戒、玉太郎くんの沙悟浄に焦点を当て、弱い彼らが強い妖怪に立ち向かうさまを描きます。さらに、ちょっと大人の梅丸さんが孫悟空を演じます。食いしん坊の猪八戒、理屈っぽい沙悟浄、上から目線だけれど一本ネジが緩んでいる孫悟空らを主筋に、三蔵法師の恋愛という脇筋を絡めた舞踊劇です」と勘十郎は語る。
出演者中、最年少の玉太郎は、中学3年生。「本来は主役ができる時期ではないので嬉しいです。前回は山神役をさせていただきましたが未熟でした。自分はまだ型ができていないので、台詞も踊りももっと頑張りたいです。計画を立ててもその通りにできないところなど、沙悟浄と僕は似ているかもしれません。河童ですが元々は人間だった役なので、人間らしさも出したいです」と静かに闘志を燃やす。
現在、大学1年生の梅丸は「初めて参加致します。若手で、勉強会ではなく公演をさせていただけるのは有難いこと。孫悟空のおっちょこちょいなところや、ピンチになると周りに助けを求めるところが、僕の素の部分と重なります。今回は“なり”に頼れない素踊りで、かつ、お客様との距離が近い劇場ということですので、しっかりとキャラクターを伝えることが課題です」と意気込む。
この日、学校の都合で欠席となった高校1年の鷹之資は後日、「前回は坂田金時役で、押し戻しなどを経験させていただきました。先輩がなさるのを見てはいても、実際に自分でやると発見がありましたし、頭で分かっていてもできないのだということも分かりました。猪八戒は、強くて勇ましい金時とは対照的に、弱々しく面白味のあるお役。愛嬌を出せたらと思っています」とコメントを寄せた。
前回は勘十郎が土蜘蛛に扮し、蜘蛛の糸を観客にかかるほど盛大に撒いたが、今回は金魚の妖怪・霊感大王として若者達に立ちはだかる。どのような趣向が展開するのだろうか?「何もないKAATのスタジオは、演出家にとって燃える空間。変身や妖術、そしてクライマックスの水攻めをどう見せるか、古典の手法を取り入れながら知恵を絞ります。前回同様に両花道を作るほか、昔の芝居小屋にあった空井戸(からいど)のような仕掛けも考えています。その中で、前回より半歩でも、若手の成長を感じていただければ幸いです」(勘十郎)
公演は3月25日(金)から27日(日)まで。
取材・文:高橋彩子