蒼井 “ジョンさん”が描きたかったのは、二人の近親相姦の純愛そのものではなくて、もっと大きなものだと思うんです。だからお客さんも二人に共感できないかもしれないけれど、この作品に限っては実は共感する必要ってあんまりないのかもしれない。二人の愛情と、社会や常識の間にお客さんが立たされるような……。私たちを見ているようで自分たちの良識を問われるような、そこまでいければいいなとは思っているんですけれど。
————同時代の『ロミオとジュリエット』とはぜんぜん違いますね。
蒼井 『ロミオとジュリエット』はやっぱり二人の恋愛を応援してしまう。ロミオが、ジュリエットが死んだと思い込んでるシーンで「生きてる、生きてる!」って思う(笑)。そこは違いますよね。
浦井 この作品は実在した人たちの事件を劇的にフィクションにした戯曲なので、その部分も違う。
蒼井 言ってみればこの二人の恋愛は当時のゴシップネタですもんね。
浦井 そう。だから二人は蒼井さんが言ったように“動物的”に、考えるより感じろというスタンスで、熱量を持って演じていくのがいいのかなって思います。
兄妹、二人の共通点とは?
————演劇は毎日稽古を重ねて作っていくものですが、お二人は稽古の時間と日常のオンオフはどんなふうに切り替えていますか?
浦井 その時演じている役の口調が日常でふと出てしまうことはあります。役に影響されやすいのかもしれない。
蒼井 シャルル(共演した『五右衛門〜』で演じたちょっと抜けた感じの王子)をやっていた時は家でどうなってたの?
浦井 言葉が、上手くでてこなくなった。
————(笑)
浦井 本当に会話ができなくなるんです。ご飯を食べに行ってもすいませんって声をかけられない。ハンバーグとハンバーガーを間違えて言う。
蒼井 それは……役というより浦井さん自身の問題じゃない(笑)?
浦井 確かに苫小牧をフルコボク、棒棒鶏をボウボウドリって読んでたから……。
蒼井 シャルルそのもの(笑)! 私はないんです、役を引きずるという経験は。憑依体質ではないので、常に客観がいて主観がいる。
浦井 かっこいい!
蒼井 いや、主観だけになれる人って強いなって思う。私は客観があるから、ちょっといつも照れが入るんですよ。「なんかやってるよ〜」っていう客観の視線を無視無視! って思いながら演じてます。
————俳優としては逆のタイプなんですね。
浦井 蒼井さんは自分のスタイルが確立しているけれど、僕はまだそれができていないんだと思います。たまに自分で自分のやっていることがわからなくなって、演出家に「お前は何をやっているんだ」って。古田新太さんに、本番の舞台上で「健治、落ち着け」って言われたことありますから(笑)。
————今作ではそんなお二人がこの作品を引っ張っていくことになると思いますが……。
浦井 もちろん二人の純愛がひとつの軸だとは思いますけど、僕自身は引っ張っていける感じがしないですね。
蒼井 誰が引っ張ってくれるんだろう? 他力本願(笑)。
————そこは二人の共通点ですね。
浦井 兄妹ですからね。
蒼井 ここは(演出家の)栗山民也さんに引っ張っていってもらおう。
声帯のことになると話が止まらない?
————この作品は兄と妹が互いに相手に情熱をぶつけていますが、お二人がいま情熱を傾けているものは何ですか?