国をあげてキャッシュレス化を推進する理由の一つに、ビッグデータの利活用がある。スマホ決済やクレジットカード決済なら、買い物情報に詳細な個人情報が紐づいているからだ。このデータを分析すれば、無駄のない生産・販売・消費活動の実現につなげることができる。ただ、壁は高い。キャッシュレス推進協議会の福田好郎事務局長は「ゴールは検討中」と苦心している様子をうかがわせる。
取材・文/南雲 亮平、写真/松嶋 優子
現時点で完全なデータをもてる企業はいない
── キャッシュレス決済には、決済事業者がユーザーの買い物情報をデータで管理できるという利点がありますが、データはどのように活用されるのでしょうか。
いわゆるビッグデータの利活用につきましては、現在、検討中です。キャッシュレス決済のデータだけだと不十分だということは分かっています。どのような消費者が、いつ、どこで買い物をしたか、というデータはありますが、何を買ったかまではわからないのです。
例えば、私がコンビニで1500円の買い物をしたとしても、決済事業者は1500円が何に使われたのかまでは把握していません。最適な消費活動を促進するためには、その消費者の趣味趣向を理解する必要があり、買った商品の情報は必要です。ですから、LINEなど一部の企業は、検索履歴をもとにレコメンドするコンテンツを探っています。
── 今のままだと、使い勝手はあまりよくないと。
先ほどの例でいえば、何を買ったのか、というデータは販売店であるコンビニしか持っていません。そのコンビニも、消費者が別のコンビニで何を買っているのか知りたいはずです。私が、一方のコンビニではコーヒーを購入して、もう一方ではおにぎりしか購入しないとします。後者のコンビニからしたら、私はコーヒー嫌いに見えてしまうかもしれません。
── 特定のコンビニのコーヒーが好きだったり、クーポンで安く買えるものだけを選んだりすれば、データに偏りが生まれますね。誤解が生まれてしまいそうです。
本当に活用できるデータをとるためには、店舗のデータとキャッシュレス決済のデータをつなぎ合わせなければいけませんし、さまざまな場所に広げる必要があります。誰の、なんのために使うデータかを考えれば、協力関係を結ぶことができる場合もあるのではないでしょうか。
ビッグデータの行方
── 企業の資産であるデータは、公開することで不利になる場合も考えられます。
企業同士で完結させるのではなく、地域や場所を盛り上げるためにデータを使うなら、だれも文句を言わないでしょう。多くの人が特定の場所に来て、さまざまな消費が生まれれば、企業にも恩恵があるからです。
── 地域限定で、データを持ち寄って分析・活用するということですね。
ただ、データのフォーマットが違う、商品コードが各社で個別に決まっているなど、すぐに実施するのは難しい状態です。データを出す、出さないはさておき、今はどういった環境が必要なのかを検討する段階です。
── 現状だと、キャッシュレス決済で集めたビッグデータの上手い活用方法が見出せていないのでしょうか。
今はだれも明確な回答は持っていないのではないでしょうか。このタイミングで気を付けなければいけないのは、「とりあえずデータをためています」という事業者です。そのデータが本当に使えるデータかわからないので、コストや人材が浪費される可能性があります。
── ビッグデータの活用に関しては、今後、どのように検討を進めていくのでしょうか。
私たちとしては、まずは「こういうゴールがあるのでは?」というものを、示す必要があると考えています。そのゴールを実現するためには、今何が課題で、どこにギャップがあるのか検討していきます。