ドイツのバレエ団“バレエ・アム・ライン”が、昨年初演した芸術監督マーティン・シュレップァー振付の話題作『白鳥の湖』を引っさげて初来日する。この有名作が1877年に世界初演された際の台本および音楽の構成に立ち返りつつ、物語よりも人間の心理に焦点を当てて送る、現代的、独創的な作品だ。9月の公演を前に、カンパニー所属の日本人ダンサー、中ノ目知章の取材会が行われた。
「この『白鳥の湖』の見どころは、音楽の美しさが前面に出ていて、その音とダンスが合っていること、そしてキャラクターそれぞれの個性が出ていることだと思います」と中ノ目は言う。「マーティンが重視したのは、クラシカルな美だけでなく、陰と陽両方の美しさ。この作品ではオデットの継母が悪役として登場し、僕はその継母の側近役を初演から踊っているのですが、演じるにあたっては、悪く見せるのではなく、自分の中に存在する悪い部分をエネルギーとして出すよう努めました」
2015年に入団し、現在27歳。シュレップァー監督下で着実に成長してきた。「芸術監督が直々にレッスンを指導することは珍しいと思うのですが、マーティンは週1回ほど見てくれるので、皆、気合が入りますね。彼のレッスンは、ただのウォーミングアップではなく、常に自分の肉体の限界まで行き、そこからさらに高めていくことを求められる。僕は“せっかく良い脚を持っているんだから、もっときちんと使って欲しい”と、毎回のように彼から骨盤の引き上げ方、付け根からの伸ばし方を指導してもらってきました。脚が伸ばせるようになるとしっかり立てるし、上半身もより使えます。マーティン自身、フィギュアスケートの経験があり、ダンスの訓練だけをしてきた人より筋肉が強く素晴らしい踊り手で、ダンサーにもそれを求めるので大変ですが、彼とリハーサルする時は彼より上手に踊るよう心がけています(笑)」
せっかくの日本公演だけに「やはり王子を踊りたかった」との思いも口にした中ノ目。「シュレップァー版の王子は、強さだけでなく弱さや、心の変化といったものが、従来版以上に描かれていて、とても人間味があるんです」。とはいえ、2020年よりマニュエル・ルグリの後任としてウィーン国立バレエ団の芸術監督に就任するシュレップァーに誘われ、中ノ目もウィーンへの移籍が決まっているのは、その実力が評価され、期待されている証だ。
「マーティンに『良いダンサーだから』と評価してもらえたことは、僕の力になっています。彼はウィーンのバレエ団をヨーロッパ一、世界一のカンパニーにすると言っていて、それはきっとバレエ・アム・ラインでも彼が目指していたこと。なので僕は、彼のもとで世界一のダンサーになるのが目標です」
まずは、シュレップァーと中ノ目のバレエ・アム・ラインでの集大成と呼べそうな日本公演、見逃せそうにない。公演は9月20日(金)・21日(土)、東京・Bunkamura オーチャードホールにて、9月28日(土)兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて。
取材・文:高橋彩子