社会の恩恵を感じ難い構造となっている現代。
この閉塞状況を打破するためのヒントを探るべく、作家の佐藤優が若き知識人たちと語り合う。
著書『右肩下がりの君たちへ』(ぴあ書籍)より、ジャーナリストの津田大介氏との対談「情報を見極めること」から抜粋して紹介。
ネットの「エコーチェンバー現象」に注意
津田 ツイッターに限らずですが、ソーシャルメディアがニュースネットワークとして広がっていくと、問題もあります。例えば自分の好きな情報にしかアクセスしなくなると、自分の近しいコミュニティの数人が話題にしただけでも、まるで世界中の多数派の意見のように感じてしまう。
よくエコーチェンバー現象といわれます。音が響く屋にいると、小さな声でも反響して何度も聞こえてくる。ソーシャルメディアにはそれと似たような部分があると。
佐藤 そういえば、モスクワの友人に聞いた話ですが、スターリンの特別会議室には声が反響する特別な仕掛けがあったようですね。
地下壕を数十メートル降りて行ったところにある大きな部屋で、声を発すると、時間差で何度も声が反響する。スターリンと会談していても、自分の声が何度も何度も聞こえてくる。結果として追い詰められたような気分になる。そうして来訪者を萎縮させる効果があったのでしょう。
津田 そうした神秘的な効果、洗脳的な効果も狙えるでしょうね。自分でフォローやフォロワーを選ぶソーシャルメディアではそこまでの強制力はありませんが、自分で視野を狭くしていくものではあると思います。
わかりやすいのがいまだと「ネット右翼」と呼ばれるような新たな保守層です。実際には、世間的にそこまで多くはないと思いますが、ネット上ではなんとなく中国や韓国によくないイメージを持っている若い人たちが増えていますよね。ほかのことでもそうですが、周りにそういう話をする人ばかりだと、極端な意見であるほど影響を受けると思うんです。
佐藤 そうですね。逆の立場に立って物事を分析できるような人なら、そうはならないだろうけど。