現状に不満のある人が、変化を要求する
木村 今回の対談テーマは「変化」ということですが、憲法にしても、そのほかの社会改革にしても、「何かを変えたい」という欲求を持つのは、現状に不満がある人たちです。しかし現状の不満を正しく分析もせず、ただ何かを変えたいという思いだけで進んでしまうとどうなるのか。
歴史を振り返れば、ファシズムに行きつくことになりますよね。いまの状況が改善される保証がなくとも、「とにかく変えてくれる人」に付いて行ってしまう。変えることだけが目的化する。
佐藤 そういうことになりますね。「何かに対して怒っている」「不満がある」という心理状況は非常に危うく、そういった権力、政治的煽動者に誘導されやすいものです。
木村 そしていま、すでにそういう状況下にあると私は見ています。現状はよく、第二次世界大戦前の空気に似ていると言われますよね。すぐに戦争にはつながらないとしても、似た何かにつながる危険性があるという意味では、あながち的外れな分析ともいえないと思っています。
佐藤 そう思います。実際に戦争のハードルは低くなっています。中東やウクライナを見てもわかるように、思わぬきっかけから戦争になる可能性もある。尖閣諸島もハンドリングをひとつ間違えば、すぐ戦争になりますよ。
集団的自衛権の目的は?
木村 集団的自衛権の閣議決定が出た瞬間、佐藤さんは「公明党の大勝利だ」と言っておられました。私は大勝利とは言わないまでも、おそらく法的な読み方としてはほぼ一緒だったと思います。今日、その話もしたほうがいいと思って来たのですが、世間一般に流れている情報だけを見ると、そもそも内閣が何をやりたいのかがわからないという人がとても多いんですよね。
佐藤 もしかしたら内閣の当事者もよくわかってないかもしれませんよ。あの人たちも、意識していることと、集合的無意識のレベルと、両方ありますから。
木村 これまでやってきたこととは違うことをやろうとしている、それだけははっきりしていますが。佐藤さんはそのあたりをどのようにお考えですか? 彼らは何かを変えたいと思っているのか、あるいは何を考えているのか。
佐藤 少なくとも、怒っていますよね。「日本が侮辱されている」「歴史認識で我々はおとしめられている」と。これはアメリカの宗教右派と一緒です。ただし何が具体的な対象かわかっていないから、怒りの矛先がころころ変わる。いまは朝日新聞ですね。何かを変えたいとは思っていても、何を変えたらいいのか、対象化するということ自体をあまり深く考えていない。
木村 だとすると、一般の人が理解できないのも当然ですね。
佐藤 特徴ということでいえば、非常に小さい範囲でのコミュニティを大切にします。そして忠誠心を問う。一次政権(第一次安倍晋三内閣)のあと、自分を裏切らなかったメンバーで固めています。さらにいうと、心の問題が大きいはず。安倍さんは就任以来「戦後レジームからの脱却が必要」として改憲を主張してきました。これはやはり、祖父である岸信介元首相の思いをどのように捉えるかを問題にしているんです。
木村 そもそも「集団的自衛権は保有しているが憲法上行使はできない」という現在の解釈は、岸信介首相の国会答弁から生まれて、これまでの歴代内閣で踏襲されてきたものですね。