法的な感覚のない人間がトップに立つと…
佐藤 安倍さんって非常に不思議な人です。自民党内では、岸元首相の孫であり、すごくきれいなお姫様のような存在です。そして全党員がお姫様の寵愛を求めている。そういう雰囲気を感じます。ロシアのエリツィン政権と非常に近いイメージですね。
木村 エリツィンはロシア連邦初代大統領ですから、法整備にもそうとうな時間をかけたのでしょうね。
佐藤 エリツィン政権の時代は、完全に法の混乱期にあったといえるでしょう。まず憲法を200回くらい改正したので、結果的につぎはぎで、何を言っているのかさっぱりわからない憲法になった。
木村 いきなり困ったものですね。
佐藤 さらに大統領令を年に2000件くらい出す。それとは別に大統領決定というのが6000件くらい出る。さらに別に政府の命令が5000件くらい出るんです。それらすべて整合性がとれていない。全体像がどうなっているか誰も把握できない。
木村 それは日本でいう委任命令ではなく、完全に独立命令として出されるんですか?
佐藤 そうです。憲法を廃棄して選挙をするときも、例えば1993年秋に「段階的憲法改革に関する大統領令1400号」を出して、内乱になりました。もうめちゃくちゃですよ。とんでもない話に聞こえるかもしれませんが、法的な感覚のない人間がトップに立てば、日本でも十分に起き得る事態だと思います。
木村 現にいま、そういうことも予測されていますよね。閣議決定の文言自体は、これまでの憲法解釈の範囲内に収まるように出しているけれども、実際に安保関連の法律をつくる場面では、憲法はおろか、自分たちが決めた閣議決定すら無視して、整合性がないまま話が進んでしまう可能性がある。
佐藤 その部分がいちばん心配です。そしてあの人たちはそれがわかっていない。
木村草太
1980年生まれ。憲法学者。首都大学東京准教授。
若き知識人・法学者として多方面から注目されている。将棋をこよなく愛する一面も。近著に『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』(晶文社)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)など多数。
佐藤優
作家、元外務省主任分析官。1960年生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に上梓した『国家の罠−外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。
2006年には『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。世界・経済情勢はもちろん、愛する猫についても語る「知の巨人」。
右肩下がりの君たちへ
著:佐藤優 1,058円
社会の恩恵を感じ難い社会構造となってる今、この閉塞状況を打破するためのヒントを佐藤優と、若き知識人たちが語り合う。
津田大介×佐藤優「情報を見極めること」
古市憲寿×佐藤優「希望を持つこと」
萱野稔人×佐藤優「家族を持つということ」
木村草太×佐藤優「変化の中で生きること」
荻上チキ×佐藤優「いじめについて考えること」