さる4月23日、第16回 手塚治虫文化賞の選考結果が発表された。もっとも優れた作品に贈られるマンガ大賞(2008年に誕生したマンガ大賞とは別物)には、岩明均氏の『ヒストリエ』が輝いた。かつて『寄生獣』で社会現象を巻き起こし、今なお壮大な歴史ロマンに挑み続ける岩明氏の受賞は大いに納得いくものだろう。
『ヒストリエ』については以前の記事で語っているため、今回はもう一つ別の受賞作――“新しい才能を示した作品”へ贈られる新生賞を獲得した、『シュトヘル』(伊藤悠/小学館)を紹介したいと思う。
■時空を超える歴史ロマン
この作品は現代日本と、約800年前のユーラシア大陸を往復して語られる。不思議な夢に悩まされる高校生の須藤は、謎の転校生・スズキと出会ったことがきっかけで夢の舞台――モンゴル軍がタングート族を侵略している戦乱の時代に放り込まれた。そこで目覚めた須藤は、なぜか自分の魂が“シュトヘル”(悪霊)とあだ名される強靱な女戦士に入り込んでいることに気付く。とまどう須藤は、スズキに似た顔立ちの少年・ユルールと出会い、“シュトヘル”が処刑されるまでの壮絶な過去を聞かされるのだった……。
このように「人格入れ替わりもの」と「タイムスリップもの」をベースにしているわけだが、後述する文化的な設定がストーリーに絡んできたり、アドレナリン全開の戦場バトルアクションが冴え渡るなど、きわめて多彩な楽しみ方ができるエンタメ作品に仕上がっている。
■ストーリーを動かす2組の男女
須藤(貧弱な男子高校生)→シュトヘル(最強の女戦士)
スズキ(女子高校生)→ユルール(シュトヘルを気にかける優しい少年)
主要キャラ2名の入れ替わりをまとめると上記のようになる。シュトヘルの体に須藤が入り込むことがあってもその逆はないようなので、厳密には入れ替わりというより憑依に近いかもしれない。