『俺ら東京さ行ぐだ』(吉幾三)

歌謡曲でありながら、ラップ調の歌唱とビート、そしてスクラッチを導入し、80年代に大ヒットとなったのが、吉幾三さんの『俺ら東京さ行ぐだ』です。

田舎に住む若者の都会に対する憧憬をユーモラスに表現したコミックソング風の一曲ですが、この曲が凄いのは、2000年代に入ってネットユーザーを中心に再評価された点にあります。

その先鋭的な作風と独特のユーモア感覚が再発見され、リミックス音源や他の曲と合わせた(マッシュアップ)音源のアップロードが流行。「IKZO」と呼ばれるムーヴメントを生み出しました。

オリジナル盤のリリースから四半世紀近くの時を経て、更なるブレイクを果たした『俺ら東京さ行ぐだ』。その特異な経緯も含めて、まさに、日本独自の"ラップ歌謡"を象徴する楽曲となっています。

この曲は、吉幾三さんがヒット曲に恵まれず、更に、病気により長期の入院を余儀なくされるという絶不調の時期に、知人がお見舞いに持ってきた洋楽のレコードでラップに触れ、そこに触発されて誕生した曲とのこと。

どん底からの一発逆転劇、一種のサクセス・ストーリーとしての誕生背景もヒップホップ特有の成り上がり感を連想させ、その辺りもこの曲の「日本におけるヒップホップ、ラップ・ミュージックの元祖」というイメージを更に強調しているのかもしれませんね。

後に吉さんは、この路線を更に進化させた『茶魔さま』(テレビアニメ『おぼっちゃまくん』主題歌。歌うは、何と田中義剛さん!)を作曲。オリジナリティーに満ち満ちた歌謡ラップを子どもたちにも教示することとなります。

『ニンジャ! 摩天楼キッズ』(特撮ヒーロー番組『忍者戦隊カクレンジャー』エンディング曲)

次は、特撮ヒーロー番組の主題歌にラップが使われた珍しい曲をご紹介します。

東映スーパー戦隊シリーズ第18作目『忍者戦隊カクレンジャー』。忍者の末裔である若者たちが、長い封印から目覚めて現代に甦った妖怪たちと戦いを繰り広げるという"和"のテイストを取り入れた設定が大きな特徴の戦隊ヒーローです。

一方で、敵役である妖怪たちは、塗り壁や天狗、化け猫といった日本古来の怪異をモチーフとしつつも、アメリカナイズされたデザインへと思い切った改変がなされ、更には、アメコミ調の擬音が使用されるなど、アメリカンな演出も数多く登場し、まさに"和洋折衷"を体現した斬新な世界観が魅力の特撮作品でした。

そうした作品性に合わせてか、エンディング曲の『ニンジャ! 摩天楼キッズ』は、ヒップホップ調の楽曲となっており、スーパー戦隊主題歌の中でも一際異色を放つ楽曲に。歌詞もキチンと韻を踏んでいる上に、スクラッチ音まで入った、ヒッピホップマナーに則った奇想天外な特撮ソングです。

また、楽曲も異色ならば、エンディングで流れる映像も異色。主役のカクレンジャーが最後の最後にしか登場せず、敵の妖怪や戦闘員がストリートダンスを踊るという、これまた思い切った演出が行われており、当時の子どもたちに強烈な印象を残しました。

日本語ラップで初のミリオンセールスを記録したEAST END+YURIの『DA.YO.NE』と同じ1994年にリリースされているという点も注目すべきポイントです!

『WAR WAR! STOP IT』(テレビアニメ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』オープニング曲)

特撮ヒーロー番組でラップを子どもたちに伝えてくれたのが『忍者戦隊カクレンジャー』ならば、テレビアニメでヒップホップを知らしめたのが、この『WAR WAR! STOP IT』。

アメリカで制作された『トランスフォーマー』シリーズの一遍であり、フルCGによるアニメーションも大きな話題となった『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』のオープニング主題歌として使用されていました。

ヒップホップユニット、下町兄弟が手掛けたこの曲は、作品のメインストーリーであるサイバトロン(正義の軍団)とデストロン(悪の軍団)の戦いをラップに乗せて高々と描写する正統派のヒップホップナンバーとなっています。

またアニメ本編では、子安武人さんや千葉繁さんを筆頭とする豪華なベテラン声優陣が吹き替えに参加し、元の脚本を完全に逸脱した爆笑必至のアドリブ合戦を繰り広げるという非常に個性的なローカライズが行われており、主題歌と合わせてその暴走気味なシナリオも大きな話題に。

「既存の素材を改変して自分の言葉を乗せ、オリジナルの作品にする」という意味でも、『ビーストウォーズ』はヒップホップ的であり、『WAR WAR! STOP IT』は、そんな作品性にもピッタリとマッチした楽曲だったといえます。

リリースは1997年。ヒップホップやミクスチャーロックが、"J-POP"としてチャートインすることが当たり前になる、その少し前にフリーダムなアニメの作品性に合わせて花開いた日本語ラップの名曲です。