新国立劇場バレエ団がケネス・マクミラン振付『ロメオとジュリエット』を上演する。シェイクスピアの悲劇のバレエ化で、1965年の初演以来、世界中で愛されている名作だ。新国立劇場では2001年以来レパートリーに加わり、今回で5演め。押しも押されもせぬ人気演目となっている。主演3キャストのうち木村優里・井澤駿組の、舞台上での衣裳付きリハーサルに潜入した。
ジュリエットの木村は初役、ロメオの井澤も前回(2016年)は怪我で降板したため、共に観客には初お目見えのフレッシュなコンビとなるふたり。スラリとした容姿が実に舞台映えする。
見学した3幕は、ロメオとジュリエットが初めて一夜を過ごしたあとから始まる。ロメオはその前の2幕でジュリエットの従兄ティボルトを殺害してヴェローナの町を追放となり、ジュリエットと離れなければならない。指揮者が振るタクトに合わせ、オーケストラではなくピアノがプロコフィエフの音楽を奏でるという、リハーサルならではの光景の中で展開するのは、愛と嘆きがない交ぜになった切ないパ・ド・ドゥだ。
去ろうとするロメオのマントを脱がせ、別れを惜しむ木村ジュリエット。そのジュリエットを切なげに抱きしめ、抱き上げる井澤ロメオ。マクミランの振付は、演劇のように自然かつドラマティックで、ジュリエットの踊りにも両手で手を覆って嘆くなどの仕草が組み込まれるのだが、そうした動きと共に木村の悲しげな息遣いが聞こえてきて、真に迫る。
別れの時が来てロメオが去ると、入れ替わりにジュリエットの両親、乳母、そして、婚約者パリスが入ってくる。意に沿わない結婚に抵抗し、懇願するジュリエットだが、両親も乳母も取りつく島がない。そのことを悟ったジュリエットがベッドの上で身じろぎせず何秒間も座り続ける場面があるのだが、彼女が覚悟を決め、結果的に悲劇へと向かう前のこの姿には、心打たれずにはいられない。
教会へ出向き、ロレンス神父から仮死状態になる薬を渡されたジュリエットが自室に戻ると、再び両親やパリスが現れる。ここでパリスと踊るジュリエットは、うつろな、まるで魂の入っていない人形のよう。さらに必見なのは、薬を相手に彼女が繰り広げる、怯えや恐怖、決意の表現。木村の瑞々しい表現力が光る。
こうしてドラマは、ジュリエットが死んだと思い込んだロメオの自殺、そのロメオを見たジュリエットの慟哭、そして自害まで一気に駆け抜けていく。愛し合いながらすれ違い、それでも互いを想いながら果てる恋人たちの姿を、悲しく美しく描き上げたマクミランの傑作の開幕は間もなくだ。
取材・文:高橋彩子