言われ続けた「エモーションが全然足りない!」
――通電なんてされたことなんてないでしょうし、実生活で味わったことのない苦しみや恐怖をお芝居で表現するのは難しいですよね。
だから、すごく考えました。痛いってどういういうことなんだろう? とか、通電されたときに身体のどこが固まるんだろう? とか。
それこそ、あんなに大きな声で「ウワ~!」って叫べるのかな? とも思ったんですけど、監督は感情さえ観る人にちゃんと伝わればいいという考え方だったので、リアリティはそこまで求められなくて。
逆に感情に嘘が入ったりすると、「ダメだ、ダメだ。エモーショナルに! エモーショナルに! エモーションが全然足りない!」ってずっと言われ続けるんです。
――と言うか、すべてのシーンが大変ですよね。
いま考えたら、本当に面白い日々を送っていたなと思って(笑)。
「通電」「暴力」「通電」「暴力」「自殺」、あと「走る」みたいな香盤でしたから。でも、またやりたいなって思います。
毎日がキツくても生きていけるんだってすごく思った(笑)。
――そこが女優さんならではのメンタルでしょうし、それだけ得たものが多かったということですよね。
そうですね。私も内気な人間だったから、美津子の弱さが分かったり、共感する部分もたくさんあったんですけど、撮影がすべて終わったときに自分もこんな風になれるんだ! 毎日がキツくても生きていけるんだってすごく思って(笑)。
だって私、死んでないし、命があるから。
そう思うと、何でも乗り越えられるような気がしてくるし、そこは以前の自分と少し変わったような気がします。
――先ほど「椎名さんのお芝居を見ているのも楽しい」というお話がありましたが、一緒にお芝居をされていかがでしたか?
面白かったですね。
村田みたいにトークが面白くて相手をその気にさせる人が実際にいたら、騙されちゃう人も絶対にいると思います。
しかも、椎名さんが演じられた村田はキュートなんですよね。可愛い! だから私も、村田にどんどん支配されていくような感覚はあったかもしれない(笑)。
――危ない!(笑)
あれは特殊な感情でした。「オマエは邪魔だ!」って言われて張り倒されても、飼われているワンちゃんみたいな気持ちになってくると言うか(笑)。
何があっても“忠実”ってどういうことなんだろう?
――村田を見つめる、あのトロ~ンとした目はスゴいなと思いました(笑)。
私もワンちゃんとネコちゃんを飼っているんですけど、何があっても忠実ってどういうことなんだろう? とか、この人しかいないって信じきっている人はどういう顔をするんだろう?ってすごく考えて。
それを突き詰めていったら「オマエは邪魔だ」って言われるのもちょっと楽しくなってきたんです(笑)。
だから、本当にこの撮影で、人間を演じるときのいろいろな扉を開けていただいたような気がしますね。
――後半、トイレから先に出てきた美津子は少しだけ舌を出しますが、あれは鎌滝さんが勝手にやったことですか?
いえ、監督の演出です。でも、あれも現場でいきなり入ったシーンだったし、監督から「オマエ、出てくるときに舌を出せ!」って言われたときは、えっ、何で? どういうこと?って思いました。
――作品の全貌を知る前だったんですね。
そうなんです。だから、どういうこと? 何を思って、監督はそんなことを言うんだろう?ってすごく考えたんですけど、「いや、いいんだよ。面白いことになるから、ちょっとやってみろ!」と言われてやったんです(笑)。
ラストシーンでは不思議な精神状態になった
――鎌滝さん自身は、25歳の引きこもりでバージンの美津子を演じていたわけだから、確かに戸惑いますね。
だから、シーンによっては本当のことを役者に伝えない監督の演出にコントロールされていたんだなと思います。
――園子温監督が、巧みなトークで人を騙す村田みたいですね(笑)。
そう思います(笑)。監督は本当にチャーミングで言葉も達者だから、村田にはそんな監督の精神性が投影されているような気がするし、彼が言っていることは監督自身の言葉なんじゃないかなって思うぐらい、園さんのエッセンスがたくさん入っていると思います。
――村田もそうですけど、シンにもそれは感じます。
シンも確かにそうですね。でも、シンを演じられた満島さんには現場ですごく助けていただきましたし、若手の役者のひとりひとりをケアしてくださいました。
――若手の役者たちに「オマエら、ここで本気を出さなかったら、いつ出すんだ?」と言って、鼓舞したそうですね。
監督と同じぐらい、何度も何度も言ってくださいました。
それも自分の中では大切な思い出ですし、いただいた言葉は一生大事にしたいなと思うものですけど、なんか面白かったです。
村田やシンが園子温監督の世界にどんどん入っていって、撮影が進んでいくという感じでしたから。
――具体的なことはネタバレになるので書けませんが、撮影中に大きく変わった、美津子のラストシーンの差し替え台本を最初に読んだときはどう思いました?
ウワッ、面白いって思いました(笑)。
でも、実際に演じてみたら、それまですごく繊細な女性として生きてきた時間があったから、心がすごく反抗してきて。妙子に向かって暴言を吐くところも、言いながら心がバラバラになりそうになったし、求められている強さであのセリフを言えているのかも分からなくなったんですけど、そんな風にいろいろな感情を戦わせながらあのセリフを言い、あのシーンを撮り終わったときには、全身の力が抜けてしまって。ただただ生きているだけ、というすごく不思議な精神状態になったのを覚えています。
オフの日は何して過ごす?
――『愛なき森で叫べ』の美津子役のインパクトが過ぎたので、ご本人もこういう人なのでは?って思っちゃう人もいるかもしれませんが(笑)、鎌滝さんご自身はおっとり系なのか、テキパキ系なのか、どちらのタイプですか?
テキパキしていないタイプだと思います(笑)。
――では、ダラダラするときはダラダラしちゃう?
ダラダラするのは苦手なんですけど、「あっ、忘れてた!」という失敗が多くて、いつも怒られています(笑)。
――オフの日は何をして過ごすことが多いですか?
基本的に家にいますね。
――でも、美津子のような引きこもりじゃないですよね(笑)。
あんな感じではないです(笑)。
家で映画を観たり、本を読んだり、お酒もすごく好きなので、自分で焼酎の水割りやソーダ割り、おつまみを作ってくつろいでいます。
ーー自宅で過ごすのが好きなんですね。
好きですね。でも、休みの日にひとりで飲みに行ったりもします。銭湯が大好きなんですよ(笑)。
なので、銭湯に行って、ひとりで飲み屋さんに行って、散歩して帰ってきたりして。
そういうのがすごく好きです。
――最近はサウナ女子も増えていますけど……。
流行りだしちゃったんですよ。
別にそのこと自体はイヤじゃないけど、ああ、流行っちゃったな~と思って(笑)。
私もサウナは入りますけど、最近のサウナ女子みたいにサウナに何分入って、水は何分、それを何セットみたいな、そういう入り方はしてないです。
最近ハマっていること
――そんな鎌滝さんが最近ハマっていることは?
最近ハマっているのは料理ですね。おつまみを作ったりするのがもともと好きなんですけど、最近ハマっているのはなぜだろう?(笑)
――おつまみはアプリを見ながら作るんですか?
そうです。(料理アプリの)クラシルを見て作ることが多いですけど、自炊は楽しいです。
――似たような質問ですが、いちばんテンションが上がるとき、ウワ~って楽しくなるときはどんなとき?
いい映画やお芝居を観たときにハイになりますね。