最近、いちばんテンションが上がったのは?

――最近、いちばんテンションが上がったのは?

『ボーダー 二つの世界』(18)という映画を観たときですね。

すごく不思議な映画で、観た人によって意見が分かれると思うんですけど、劇中に出てくるラブ―シーンが私の中ではこれまで観たラブシーンの中でいちばん美しいものだったんです。

人間の形をした者同士なんですけど、甘噛みをしたりとか、愛情表現が決して人間のものではなく、動物同士が交わり合っているような感じと言うか。

そのシーンを観たときに、ウワッ、カッコいいと思って、すっごいテンションが上がりました。

人間も本来持っている動物としての本質をそこで感じたり、こういうお芝居ができるようになったら、人生、本当に楽しいだろうなと思ったり。

そういうときはテンションがめちゃくちゃ上がって、どうしようもないから、ひとりで飲みに行っちゃいますね(笑)。

――そもそも女優になりたいと思ったきっかけは何だったんですか?

映画がもともと好きだったからっていうのもあるんですけど、お芝居は自分の弱さをプラスに変えたり、家庭内暴力やイジメなどの問題にも取り組めるお仕事なので、そこにやり甲斐を感じたんです。

私も映画を観て、元気になったり、感動したりすることがあるので、それを提示できるお仕事にずっと関わっていきたいなと思ったのが最初ですね。

――何歳ぐらいのときにそう思ったんですか?

二十歳ごろだったと思います。

それまではモデルの仕事をしていたんですけど、自分は綺麗なお洋服を着て、それを紹介するよりも、人のいろいろな感情に寄り添う仕事の方が絶対に好きだし、向いていると思って。

それがきっかけです。

好きな映画

――どんな映画が好きなんですか?

ゲイリー・オールドマンさんが出ていた『蜘蛛女』(93)が大好きなんです。

私は強い女の人が出てくる映画が大好きなんですけど、この作品でレナ・オリンさんが演じられていたモナは中でもいちばん強烈で。

きっと壮絶な過去があって、その強さを持っているんでしょうけど、ああいう強い女性が動物のように生きている映画にすごく惹かれるんです。

――日本映画では?

日本映画は『蒲田行進曲』(82)のような、エンタテインメント性を感じるものが好きかもしれないです。

それと、映画制作のシステムが好きなので、『蒲田行進曲』の場合は撮影の裏側やセットなどが出てくるのも面白いなと思いました。

新しい自分を発見。

――『愛なき森で叫べ』のほかにも出演作が何作か待機中ですが、『子どもたちをよろしく』(20年春公開予定)という映画ではヒロインのデリヘル嬢・優樹菜を演じられましたね。

この作品で演じた優樹菜は、『愛なき森で叫べ』の美津子とはまた違った、すごく辛い過去を抱えた女性なんですけど、この作品でも新しい自分を発見することができました。

――新しい自分というのは?

優樹菜はとても正義感が強い女性なんです。

ネグレクトとか育児放棄、家庭内暴力といった社会問題と向き合った作品ですけど、彼女はそういうことで苦しんでいる人たちを変えようと思って動くんです。

私自身もそういった問題に関心があったし、役者としてそんな現実の問題を伝えて改善していたけらいいなと思っていたので、そこに真正面から切り込んだ『子どもたちをよろしく』と出会えて、その想いを改めて強くすることができたんです。

――待機作には日中共同制作のドラマ『東京男子図鑑』(20年春放送予定)もあります。

はい。あまり詳しいことは言えないんですけど、これもまた『愛なき森で叫べ』や『子どもたちをよろしく』とはまったく違う女性で。

32歳で外資系の銀行の営業をしているスーパーキャリアウーマンなんですけど、外資系の銀行で営業をしている女の人は仕事が相当できて、相当気が強くないと務まらないんですよね。

そんなバリキャラ女子をいきなり演じさせてもらったので、すごく面白かった(笑)。

――この作品の監督は、映画『めがね』(07)のメイキングなどを手がけ、小林聡美&もたいまさこ主演のドラマ「2クール」(08)に演出家のひとりとして参加後、10年の『マザーウォーター』映画監督デビューを果たした松本佳奈さん。

中村佳代と共同監督した『東京オアシス』(11)、群よう子の著書をドラマ化した「パンとスープとネコ日和」(13)などの作品でも知られる注目の映像クリエイターです。

そうです。松本さんこそキャリアウーマン! 女性として強く生きている本当に素敵な女性で。

同じ働く女性として……なんて比べたら申しわけないぐらいカッコよかったし、働く女、戦う女はやっぱりカッコいいって思いました。

鎌滝さんが思う、カッコいい女性とは?

――鎌滝さんが思うカッコいい女性とは、どんな女性ですか?

どんな状況でも、自分を絶対に信じられる人は強いなと思います。

例えば、『東京男子図鑑』で私が演じた中山小百合も、金融の世界で男の人たちと戦って生きていくので、自分に自信があるし、自分はこういう考えだからという絶対揺るがない芯のようなものがあって、自分の意見を簡単に曲げないんですよね。

そういう女性はやっぱり強いと思います。

――自分の意見を簡単に曲げないところは鎌滝さんにも近いですか?

そういうところは……ありますね(笑)。

すごく頑固なところもあるので、小百合のようなキャリアウーマンには憧れます。

――プレイステーションのゲームソフト『龍が如く7~光と闇の行方~』(20年1月16日発売)にも出演されていますが、ここではどんな女性を演じられているんですか?

鎌滝えりという役なんです(笑)。

――えっ、自分自身を演じられたんですか?

でも、この作品の鎌滝えりちゃんは“一番製菓”というお菓子会社の社長なんですよ!

ただ、台本があてがきと言うか、私に近づけて書いてくださっているので、だいぶおっちょこちょいのキャラで、そこは自分と似ているかもしれないです(笑)。

――いずれにしても、これから、いろいろな鎌滝さんが見られるわけですね。

そうですね。まったく違う女性を演じさせていただくことが続いていますから。

でも、引き続き、この先もさらにいろいろな役に挑戦していきたいです。

――『愛なき森で叫べ』で園子温監督の過酷な現場を経験されたので、もう怖いものはないんじゃないですか?(笑)。

自信にはなりました。だから、本当に感謝しています。

それに、園子温監督の映画に出てくる女性はみんなすごく強いから、私も彼女たちに負けないように、強くなっていかなきゃなって思っています。

――とりあえずの、将来のビジョンは?

いろいろな役をやっていきたいですけど、やっぱり大変な想いをしている人たちに寄り添える作品にはたくさん出たいと思っていて。

それと、『愛なき森で叫べ』や『東京男子図鑑』もそうですけど、海外にも配信される作品がどんどん増えていくと思うので、自分で範囲を決めないで、海外の仕事にも挑戦して、いろいろな言葉に触れていきたいです。

――英語とかは大丈夫なんですか?

いや、全然ダメなんですよ(笑)。だから勉強中なんですけど、私みたいな人間はこの仕事をしていなかったら母国語以外の言葉を喋りたいと思わなかっただろうから、そこは自分でもビックリしていて(笑)。

作品が、女優の仕事がそんな自分でも思っていなかったことを意識させてくれたので、ほかの国の言葉も勉強して、いろいろなことに挑戦していきたいですね。

壮絶な現場を笑顔で楽しそうに振り返ってくれた鎌滝えりは、園子温監督が見出だしただけあって、確かにただ者ではなかった。

まだまだ演技経験も少ないが、彼女の中にはまだ本人も気づいていない、とんでもないものが眠っているに違いない。

すべてのことをポジティブに、プラスの方向に持っていけるメンタルも鎌滝えりの武器と言えるだろう。

そんな彼女が、これからどうやって本人が憧れる“強い女性”を体現する女優として進化してくのか楽しみだ。

鎌滝えりの挑戦はまだ始まったばかりなのだから。

・鎌滝えりInstagram

・鎌滝えり公式HP

Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』

監督・脚本:園子温
出演:椎名桔平、満島真之介、日南響子、鎌滝えり、YOUNG DAIS、長谷川大 / 真飛聖、でんでん
配信:Netflixにて全世界独占配信中

 

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。