エイベックス・デジタルデジタルビジネス株式会社本部デジタルコンテンツ制作部統括部長の三宅裕士氏(写真、右)、制作プロダクション・ロボットのコンテンツ事業本部副本部長チーフプロデューサーの丸山靖博氏(写真、左)

dTV、AbemaTV、Netflix、Amazonプライム・ビデオ――ここ数年で急速に盛り上がりを見せているのが動画配信市場だ。

コンテンツの内容や課金スタイルは様々なので安易にひとくくりにはできないが、少なくとも「動画」が盛り上がっていることについては疑問の余地はないだろう。

そうなると気になるのは、こうした流れを従来の映像業界で活躍するクリエイターたちはどのようにとらえているのかということである。

動画配信は果たしてテレビや映画といった既存の産業を脅かすまでになるのか、それともまったく別物として進化していくのか。

dTVを運営するエイベックス・デジタルデジタルビジネス株式会社本部デジタルコンテンツ制作部統括部長の三宅裕士氏と、TVや映画、CMなど多方面の動画制作を手掛ける制作プロダクション・ロボットのコンテンツ事業本部副本部長チーフプロデューサーの丸山靖博氏に、動画配信市場の現在と将来の展望を聞いた。

配信は既存の映像事業とはまったくの別もの

――動画配信市場がここ数年で一気に拡大している印象があります。お二人が作り手の立場から盛り上がりを感じるようになったのはいつ頃からでしょうか。

三宅:僕は2011年くらいからでしょうか。

2009年にBeeTV(エイベックスとNTTドコモが共同で運営する携帯電話専門の動画配信サービス)が始まって、2011年にdマーケットビデオストアにサービスが進化し、洋画や韓流ドラマやアニメなどを配信するようになり、今のdTVにつながっていくわけですが、そこでの会員の伸びがすごかったんです。

私たちの予想を上回る勢いでした。

――なぜそれほどの勢いで伸びたのですか?

三宅:コンテンツのクオリティが向上していたのはもちろんですが、dTVはワンコインなので他の動画配信サービスよりも安いということもあるでしょう。

それからインフラの発達が大きいですね。

2011年あたりからスマートフォンやタブレットが普及し始めて、マルチデバイスの視聴環境が整ってきた。

昨年あたりからはNetflixやAmazonプライム・ビデオが参入してきたことで、さらに市場の拡大スピードが加速していると感じています。

丸山:制作プロダクションの立場から見ると、ここ2~3年はすごく伸びている実感があります。

問い合わせも増えたし、予算も出るようになりました。

――問い合わせというと?

丸山:「こういう動画をウチでも作りたいんだけど」というようなお話ですね。

我々はBeeTVでも作品制作を行っていたので、今はお話をいただいた時点でうまくいくか、いかないかがだいたいわかるようになりました。

――うまくいくか、いかないかを分けるポイントは?

丸山:自分たちのメディアの特徴を自分たちでしっかり理解している方が仰ることは理にかなっていて、うまくいくことが多いですね。

逆にTVや映画と同じような感覚で動画配信のお話をされるところはうまくいかないことが多いです。

たとえば弊社の場合、「踊る大捜査線」みたいなコンテンツが欲しいんですって言われることがあるんですが、動画配信でなぜそれを? と思います。

――動画配信サービスのコンテンツは、TVや映画といった従来の映像コンテンツとはまったく別物だ、と。

丸山:まったく違いますね。

三宅:ロボットさんの場合、すでに映画やCMなどいろいろなコンテンツを制作されていて、その上でdTVの作品制作をしていただけるのは強いですよね。

人材もいるし実績もあるし、従来の映像業界と新しい配信トレンドの両方を理解しているから。

――既存の映像とはどのような違いがありますか?

丸山:制作の立場でいうと、いろいろなデータが細かくとれることです。

年齢や性別、趣味嗜好、サービス内のどういう動画をどれくらいの時間見ているのか、何時に見ているのか、動画配信サービスではそういうデータがすべてとれるんです。

三宅:ですので、dTVでもユーザーを具体的に想定して制作しているんです。

たとえば20代の女性がどこで何を見るのか。30代男性ならどうか。

細かくユーザーを想定することでニーズを引き出して制作しています。

――従来の映像業界はそういった制作スタイルではなかった?

三宅:これまでの映像業界ではやってこなかったことでしょうね。

丸山:データがとれてターゲット層がはっきりすると、目標が明確になるので面白いですよね。

動画配信のコンテンツは二つのスタイルが共存していく

――動画配信サービスでヒットするコンテンツはどのようなものでしょうか。

「キス× Kiss×キス 」

三宅:dTVでいうと、コンテンツは大きく2種類に分かれます。

映画やTVの流れをくむ映像作品(仮にプロコンテンツと呼びます)と、一般の方が作っているものに近いユーザー目線のコンテンツ。我々はこの両方が必要だと考えています。

たとえばBeeTV時代に大ヒットした「キス× Kiss×キス 」は後者に近いです。

女の子の理想のキスを集めるというコンセプトなのですが、この作品は見る人が存在して初めて完成する作品でした。ユーザー目線ですよね。

――今後はユーザー目線的なコンテンツが増える?

三宅:お金をかけてきちんと制作されたドラマやバラエティのようなプロコンテンツも必要だと思いますよ。共存していくのではないでしょうか。

弊社は音楽もやっていますが、昔のように100万枚売れて皆が同じものを聴く時代ではありません。

映像も同じで、ぜんぶがぜんぶユーザー目線的なコンテンツだけでは物足りないし、プロコンテンツばかりでもダメ。両方が必要なんだと思います。

――そこはサービスの色が出そうな部分ですね。

三宅:そうですね。オリジナルドラマが特徴的なサービスもあれば、昔のBeeTVに近いユーザー目線的コンテンツを多く揃えているサービスもあります。

それぞれのサービスでターゲットにしている層があって、それに合わせて色が決まっていくのだと思います。