日本のスタートアップ企業であるfreecleはCESで聴覚支援ヒアラブルデバイス「able aid」を出展していた

1月7日~10日に米ラスベガスで開催された「CES 2020」には、聴覚支援ヒアラブルデバイスを手がける日本のスタートアップ企業、freecle(フリークル)がブースを構えていた。難聴は先進国を中心に深刻な社会問題になりつつあり、世界最大のエレクトロニクスショーにおいても同社の新製品「able aid」は多くの関心を呼んだようだ。

freecleは経済産業省が推進する日本のスタートアップ支援のプログラム「J-Startup」に、JETRO(日本貿易振興機構)の推薦を受けてCESへの参加を決めた。同社の香本剛志氏は「日本だけでなく、アメリカでも難聴者が増加する一方で補聴器の利用者は少ない。装着感と購入価格の負担が少なく、スマートフォンにペアリングして便利な機能が使えるable aidに多くの反響がある」と出展に確かな手応えを感じている様子だった。

able aidはネックバンドスタイルのワイヤレスイヤホンの形状をした聴覚支援ヒアラブルデバイスだ。日本でも3月に2万9800円(税別)で発売を予定する。デザインはイヤーハンガータイプのワイヤレスイヤホンのように見える。実際にBluetoothでスマホにペアリングして音楽も聴ける。

本機は本体に4つの無指向性マイクを備え、ソフトウェアで集音指向性をコントロールするビームフォーミング機能を内蔵する。環境音を最大99%軽減して、前方にいる会話相手の声にフォーカスしながら音をピックアップして聞こえやすくする。

コンパニオンアプリの「able EQ」を使うと集音指向性を前方ピンポイントから最大周囲360度まで、場面に応じて複数段階に切り換えられる。筆者がfreecleのブースを訪れた際には、その実力を試すことはできなかったが、ぜひ機会があれば日本で試してみたいと思う。

スマホのようなモバイルコミュニケーション端末にヘッドホン・イヤホンなど音楽再生機器が普及してきたことによって、昨今は30代から難聴のリスクが高まりつつあると言われている。かたや30~40代の“難聴予備軍”には医療機器である補聴器を身に着けて過ごすことや、高額な機器をわざわざ購入して使うことに対する抵抗感が強くある。

「気軽に、かつスタイリッシュに使える聴覚サポートデバイス」としてfreecleのable aidには、現代の社会問題に対して先進ITテクノロジーを駆使した解決の糸口が切り開ける大きな可能性が秘められているのかもしれない。

able aidは内蔵するマイクのうち、左右の口元に向けて配置した2台のマイクを使って、発話者自身の声を集中的に拾って会話を聴きやすくする「マイボイスキャンセリング」の機能も搭載している。freecleはこの機能に特化した会話専用の「able plus」というデバイスも2020年中旬頃の発売に向けて開発を進めている。デザインはable aidと同じイヤーハンガーのワイヤレスイヤホンタイプで、香本氏は「コールセンターやビジネスマンのテレワーク用途などビジネスツールとして特徴をアピールしたい」と語る。

さらにもう一つ「able glass」と名付けた製品は音に特化したスマートグラスだ。スリムなフレームの眼鏡タイプのデザインとした本体に独自設計の骨伝導スピーカーとマイクを内蔵して、able aidのように聴覚支援用ウェアラブルデバイスとして活用を訴求する考えだ。商品化の時期は2020年下旬を見込む。

freecleが開発するableシリーズの聴覚支援ヒアラブルデバイスは医療機器ではないため、一般的な家電量販店等で販売することもできる。同社製品の国内における販売展開は当初大手眼鏡店からスタートするそうだ。香本氏は春の発売後、成果を挙げて徐々に販路を拡大していきたいと意気込みを語っていた。

難聴を患うと会話の頻度が減り、引いては脳を使う機会が少なくなることで認知症のリスクが高まると言われている。一方で難聴は認知症を引き起こす要因のうち、最も予防可能なものであるとも指摘されていることから、今後誰もが気軽に使える聴覚支援ヒアラブルデバイスが大いに注目される可能性がある。(フリーライター・山本敦)