モデル出身らしいスリムな体形から醸し出される、はかなさと危うさが入り混じった独特の雰囲気。魔性の少女・加奈子役で鮮烈な印象を残した長編映画デビュー作『渇き。』(14)以降、大根仁、三木孝浩など独自のスタイルを持つ監督たちの作品に次々と出演してきた小松菜奈。
2016年には出演映画が5本公開され、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞するなど、デビューわずか3年にして、早くも日本映画に不可欠な存在となっている。
その魅力は、独特の存在感ばかりではない。『ディストラクション・ベイビーズ』(16)では、後ろ手に縛られ、口をガムテープでふさがれるなど、激しい暴力シーンにも果敢に挑戦。「暴行されるシーンは、手加減してほしくないと思っていた」(『ディストラクション・ベイビーズ オフィシャルブック』(亜紀書房)インタビューより)と語る熱演で、女優魂を見せつけた。
そんな演技に対する熱意が実を結び、主演作『溺れるナイフ』(16)を経た『沈黙―サイレンス―』(全国公開中)では、巨匠マーティン・スコセッシと顔合わせ。キリシタンの少女を演じて「『素晴らしい』と言われて、そこから40テイク、50テイク」、「100テイクもありました」(NHK「土曜スタジオパーク」出演時の発言より)というハードな撮影を乗り越えた。
早くも海外進出を果たした小松が次に挑むのが、NHK総合・BSプレミアム連動ドラマ「スリル!~赤の章・黒の章~」である。総合で毎週水曜午後10時25分放送の「スリル!赤の章~警視庁庶務係ヒトミの事件簿」では、小松扮(ふん)する警視庁庶務係の中野瞳が主人公となり、数々の事件に挑む。一方、BSプレミアムで毎週日曜午後10時放送の「スリル!黒の章~弁護士・白井真之介の大災難」は、山本耕史演じる悪徳弁護士・白井真之介が主人公。小松は脇に回って山本と絡んでいくというユニークな仕掛けだ。
本作で小松がタッグを組むのは、「鈴木先生」(11/テレビ東京系)で土屋太鳳を世に送り出した河合勇人を始めとした4人の監督たち。河合は「スリル!」と同じ蒔田光治が脚本を担当した「ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~」(13/NHK)で、主演の橋本愛から不思議ちゃん的な魅力を引き出した実績がある。
その河合が演出を担当した「スリル!赤の章」第1回で小松は、唐突なダンスシーンを優雅に演じ、捜査場面では遺体に成り切って“変顔”を見せるなど、コメディエンヌとしての才能も披露。当サイトのインタビューでは、成長途上にある女優としての意欲的な言葉と共に、4人の監督それぞれで演出のスタイルが異なる難しさと面白さも語っており、毎回どのような表情を見せてくれるのか興味は尽きない。
8月には三池崇史監督が人気コミックを映画化した『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』にも出演予定で、その活躍は今年も続くに違いない。コメディータッチのミステリーに挑んだ「スリル!~赤の章・黒の章~」は、そんな小松の2017年を占う試金石となるだろう。
(井上健一)