04年アテネと08年北京では、ブレンダン・ハンセン(アメリカ)という世界記録保持者がいた。大会1ヶ月前になっても膝の痛みの影響で泳ぎが崩れて先が見えない状態だった04年は、自分の世界記録が塗り替えられたことを刺激にして調子を上げ、本番では勝負に勝った。そして08年北京へ向けても、2年前の大会でハンセンに世界記録の泳ぎを見せつけられて惨敗したことで、北島は自分の闘志に火をつけたのだ。
今回も同じだった。北島はそれまでやっていた泳ぎの改造をさらに突き進め、前半の50mを27秒中盤で入れるようにしようとした。世界選手権の50mの入りは28秒14で、ダーレオーエンとの差が0秒94もあった。そのタイムを27秒中盤まであげて、後半で勝負ができるようにしようとしたのだ。その成果を証明したのが日本選手権だった。27秒69で入った北島は100mを58秒90で泳ぎ切り、勝負に持ち込める手応えを得たのだ。
彼がそこまで強い気持を持てる要因。それは彼が敗戦を恐れていないからだろう。
中学生時代も彼はライバルに負け続けていた。だがその度に「次は勝ちたい」と闘志を燃やし続けた。相手の強さを認めながら、それを自然に自分の進化のための肥やしにしてしまう。強力なライバルを自分の糧にすることを彼は、中学生のレベルから世界でトップを争うレベルまでやり続けているのだ。
それを支えるもののひとつには、彼の恐れを厭わない冒険心もある。それは高校時代から彼を指導する平井伯昌コーチに叩き込まれ、磨かれてきた彼の強力な持ち味だ。「世界と戦うためには速い入りが必要だ。前半をこのくらいのタイムで泳いで見ろ」と言われれば、自分にとっては無謀と思えるタイムでの実行し、最後まで勝負を諦めることなく泳ぎきってしまっていた。また昨年の世界選手権でも、100mで惨敗したショックを引きずっていた200mでは、決勝では「ラストのことを考えれば本当に怖くてしかたなかった。でもあの状況では勝つためにはもういくしかなかったから」と、最後はダニエル・ギュルタ(ハンガリー)に逆転はされたが150mまでは、高速水着でクリスチャン・スプレンガー(オーストラリア)が出した2分07秒31のラップタイムを上回る突っ込みをしたのだ。
どんなにプレッシャーや怖さがあっても、一度開き直ってしまえば思い切った泳ぎをしてしまう。それが彼の強さであり、大舞台で結果を残せる力でもある。
「勝負できる位置にいるというのは嬉しいことだし、それをできるうちは楽しみたい」
という思いで臨むロンドン五輪。北島は3大会連続2冠を視野に入れている。100mでは最大のライバルであり、彼をまた一段進化させてくれたダーレオーエンが、4月末に心臓病で急逝するという衝撃もあった。だがそんなライバルを追悼するためにも、記録で上回って勝とうとしている。
さらに、過去2大会ではライバルらしきライバルがいなかった200mでは、やっと実力を発揮し始めた立石諒や昨年の世界王者のギュルタなどとどんな勝負ができるかと心を弾ませている。
北京五輪後は平井コーチの下を離れて新たな道を歩み始めている北島。彼にとってのロンドンは自分の可能性を確かめにいく場にすぎない。その先にあるものはきっと、メダル以上の輝きを放つもののはずだ。
参加者募集! アクエリアス 未来への夢はじめよう。プロジェクト
泳ごう!楽しもう!北島選手と夢を語ろう。 <応募締切:7月13日(金)>
6年目を迎える「アクエリアス 未来への夢はじめよう。」プロジェクトは、オリンピックイヤーである今年も子供たちからの夢レポートを募集し、厳正なる審査によって選ばれた小学生を、北島選手のホームプール「東京辰巳国際水泳場」にお呼びします。
北島選手と一緒に泳ごう!
「アクエリアス 未来への夢はじめよう。」公式サイト
[https://www.cocacola.co.jp/uruosu/yume/]
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