森山開次 提供:新国立劇場

新国立劇場がこどものためのバレエ劇場として、オリジナル作品「竜宮」を上演する。新作の世界初演まであとわずか。振付・演出を手がける森山開次がインタビューに答えた。

実は、「シンプルな話なのでバレエにはしにくい、と候補から外していた」と、モチーフとなった浦島太郎の物語について語る森山。「が、昔話にはいろんな伝わり方があって面白い。『御伽草子』の浦島太郎は、彼がおじいさんになって終わるのではなく、鶴の神に変化すると書かれている!」という。バレエの副題は、「亀の姫と季(とき)の庭」──。『御伽草子』をもとにしたこのバレエでは、太郎が助けた亀は実はプリンセスで、彼が招かれた竜宮城には、春夏秋冬の美しい四季が堪能できる不思議な季(時)の部屋が登場する。

「『御伽草子』に出会って、これは“時の話”だったんだ、とても深い話だったんだと思ったのです。これならばバレエにできると。竜宮は、ある種の桃源郷、異世界の一つの象徴と考えています。そこにある季の部屋というものを表現することで、日本の四季のうつろいの美しさ、素晴らしさをもう一度見つめ直してもらえたら」

コンテンポラリー・ダンスの世界で、ダンサー、また振付家として活躍、子ども向けの舞台、映像にも積極的に取り組んできたが、「ちゃんとバレエを創りたい、という思いがあります。バレエのファンの方や子どもたちが観て、バレエっていいなと思ってもらえるよう、バレエの醍醐味をしっかりと伝えたい。バレエには懐の深さ、広さがあります。また、トウシューズならではの表現や、バレエダンサーの持つ身体の軸の強さに、僕は惹かれるのかもしれません」

そう話す森山の手には、自作の可愛らしい亀の模型が。美術、衣裳のデザインでもその才能を発揮、おもてなし担当のお茶目なフグ、タンゴを踊るイカの三兄弟など、遊び心満載のキャラクターを生み出した。森山ワールドとも呼ぶべきそのユニークな発想の源は──?

「妄想、です(笑)。語呂合わせや駄洒落で遊び、出演者の皆にも楽しんでもらいたいと思っているんです」

主演は米沢唯と井澤駿、池田理沙子と奥村康祐、木村優里と渡邊峻郁という3組のカップルだ。

「バレエ団のモチベーションは高まっている。新型コロナウイルスのことがあって、自粛生活があって、皆さんの中で時間の感覚に対する意識が変わった部分があるのでは。劇場は玉手箱、時を封じ込めた場所でもある。時とともに、皆の思いも閉じ込めたこの劇場に、足を運んで頂けたら嬉しく思います」

公演は7月24日(金・祝)から31日(金)、東京・新国立劇場オペラパレスにて。チケットは発売中。

取材・文:加藤智子