内博貴主演の浪漫舞台「『走れメロス』~文豪たちの青春~」が、9月5日から開幕する。本作は、太宰治の親友で、作家の檀一雄が書き上げた回想録『小説 太宰治』をベースにした舞台作品。太宰と井伏鱒二ら文豪との出会いのほか、太宰が愛した女性たちとのロマンと波乱に満ちた日々を描く。太宰とともに入水して自ら命を絶ち“太宰の最後の女性”と呼ばれた山崎富栄を演じる山口真帆に、公演への思いを聞いた。
-初舞台になりますね。出演を決めた経緯を教えてください。
台本を読んだときに、この山崎富栄という役は、自分にはない感情を持っている役だと思いました。「自分とは違う、この富栄という女性の人生も生きてみたい」と思ったのがきっかけです。富栄は単純に魅力的ですし、うらやましくも感じました。自分だったらこんなふうに一人の人に尽くして、死ねるだろうか。一人の男性をここまで愛せる女性はなかなかいないと思うので、恋に焦がれる富栄は美しくもあると感じました。
-初舞台に挑む今の心境はいかがですか。
いつかは挑戦してみたいと思っていたので、楽しみというのが一番大きいです。自分ではない人物になれるというのは楽しいです。もちろん緊張はします。でも、その役が自分の中に入れば緊張も取り除けると思うので、しっかり富栄に入り込めたらと思います。
-もともと演技をしたいという思いがあったのですか。
(芸能界に)入ったときは、考えてなかったです。
-現在(取材時は稽古前)、舞台に向けて、特別な準備はしていますか。
富栄がどういう思いで太宰との死を選んだのかといったことなど、彼女の人生をいろいろな立場から考察しました。太宰の小説も、もちろん読みましたが、富栄と“同じような感情”を持つ女性たちについても調べました。自分に理解できないことを理解するのは大変ですが、自分にない感情を知れるのは面白いことでもあります。
-愛のために死ぬというのは、今の時代ではなかなか考えられないことですが…。
そうですね。ただ、愛に溺れている方は、現代でもたくさんいると思うんです。なので、役作りでは、そういった方たちの感情もSNSで調べて参考にしました。「苦しいけど相手のことを嫌いになれない」「彼には浮気相手がいるけど、自分が一番の女性になりたい」などといったもどかしさ、切なさ…。もちろん、その方たちはすごく苦しい思いをしているわけですが、やはり誰かを愛することはすてきなことだと思うし、女性は恋をしているときにすごく輝いているな、と感じます。
-富栄とご自身との共通点はありましたか。
自分が思ったことをやり通す姿勢、いくら周りが太宰のことを批判しても、「私は彼を愛する」と、自分の中に一本の正義があるところは好きです。私も大切な人がいたら、自分はいつでも味方でいてあげたいと思うので、そういう部分では共通しているかもしれません。
-富栄は自分から太宰に会いに行きました。山口さんも好きな人ができたら自分から行動に移しますか。
私はしないです(笑)。私は相手から「好き」と言われないと、自分も好きになるきっかけを持てなくて。友達の場合も、自分から「一緒に遊びたい」「友達になりたい」とは言えず、受け身でいることが多いんです。「真帆ちゃん遊ぼう」と誘ってもらうことがきっかけになって、友達になることが多いように思います。
-自分から熱烈に誰かを好きになったりすることはない?
ないです(笑)。相手に言われて、ですかね。
-人間関係ではドライな一面もあるんですね。
みんな普通に好きなんですよ。ただ愛情まではいかないのかな、と。でも一度すごく仲良くなると、その人への愛はあるので、ちゃんと大切にしたいし、幸せになってもらいたいな、と思います。
-好きになったら、いちずということですか。
そうですね。異性に限らず友達でも、好きになったら相手に喜んでもらいたいと思うタイプなので、サプライズとかも結構します(笑)。
-ところで、今日はキャラクタービジュアルで撮影もさせていただきました。舞台衣裳を着てみて、いかがでしたか。
初めてウィッグをかぶったので違和感はありますが(笑)、皆さんに「似合っている」と言っていただけたので、この富栄のルックスも愛しながら演技ができたらと思います。
-ここから女優として新たな一歩を踏み出すことになります。どんな女優になりたいですか。
やはり、いい女優さん、俳優さんというのは、いつの間にかその人に引きつけられ、感情移入してしまうものだと思うので、いつか自分もそういうふうになれたらと思います。
-具体的にイメージする女優さんは?
いないです。一人に捉われると、自分の可能性や幅を狭めてしまうと思うので、そういう人は作らないようにしていています。たくさんの方のいいところを“盗めたら”と思います。
-舞台を楽しみにしているファンの方に、メッセージをお願いします。
富栄は何年も前に生きていた女性ですが、人を愛する気持ちは誰もが経験することだと思うので、富栄の、愛に生きる姿に共感してもらえたらうれしいです。そして何か勇気を与えられたらと思います。
-ちなみに山口さんはどういう男性を愛したいですか。
焼き肉屋さんに行って、いいタイミングでお肉を私のお皿にのせてくれる人がいいです(笑)。
-つまり尽くしてくれる男性?
尽くすよりも尽くされる方がいいなと思っちゃいます。富栄とは反対ですね(笑)。人に気を使える人がいいし、尊敬できる人がいいなと思います。
(取材・文・写真/山中京子)
浪漫舞台「『走れメロス』~文豪たちの青春~」は9月5日~13日、都内・ヒューリックホール東京、9月22日、愛知・名古屋市公会堂、9月25日~27日、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演予定。
公式サイト https://roman-melos.com/