三谷幸喜監督と香取慎吾

 何をやっても予想外の失敗を繰り返す主人公・舎人真一(香取慎吾)と、書斎の壁に偶然発見した「穴」から真一の生活をのぞき見することを楽しみとしている隣人・粕谷次郎(佐藤二朗)を中心とした、三谷幸喜脚本・監督のシチュエーションコメディー「誰かが、見ている」が9月18日からAmazonプライム・ビデオで独占配信開始となる。主人公を演じる香取と三谷監督に話を聞いた。

-今回は、企画のスタートの時点で、すでにこうした形のアイデアが浮かんでいたのでしょうか。

三谷 まず、「香取さんで何かやりたい」というのがあって、プライム・ビデオさんの配信でやることになり、「では、香取さんでどんな話ができるだろうか、どんなキャラクターがいいだろうか」ということが決まっていきました。また、配信ということで、「世界に向けて」という思いもありました。僕の芝居は、せりふ劇が多いのですが、今回はせりふだけで笑わせるのではなく、動きや表情、シチュエーションで面白く見せることを考えました。例えば、香取さんが一人だけで部屋にいても、何か面白くなるような設定にならないか、というところから、舎人真一のキャラクターが生まれてきました。ですから、今回は「配信ありき」ということです。

-では、配信という形が決まった段階で、ストーリーが出来ていったのですか。

三谷 シットコムは主役のキャラクターが一番大事だと思うので、どんな人物にしようかと考えました。それが決まった段階でストーリーが決まっていきました。今回は、配信という形なので、一応30分という枠はありますが、プライム・ビデオさんから「少し伸びても構わないし、時間はあまり気にしなくてもいい」と言われました。それは、普通の地上波のテレビでは考えられないことなので、「地上波ではできないものを、思いっ切りやってみたい」と思いました。例えば、第1話で、香取さんがキーボードの破片を探す一人芝居は、そうしたことを生かして、そこから、舎人真一が何をしたら面白いのか、どんな状況に陥れば面白くなるのか、というふうに全体の流れを考えていきました。

-香取さんは、最初に脚本を読んだときはどう思いましたか。

香取 三谷さんとご一緒させていただくときは、脚本を読む前から、ワクワクするところから始まります。でも、ワクワクしている割には、衣装合わせの直前に、車の中で読んだりしていますが…。これは言わない方がよかったかな(笑)。今回は、脚本を読む前から「どんな役でもやる」と思っていましたし、実際に読んでみたら楽しくて、読み終ると「もう終わっちゃった。早く次の回のが読みたい」というふうでした。撮影中も「もう撮影終わっちゃったなあ」と感じましたし、完成したものを見ると「もう見終わっちゃったなあ」と。「早く次が見たい」と思わせてくれます。

-今、さまざまな分野でデジタル配信が広がっています。コロナ禍の影響もあり、エンタメも新たな形を模索していますが、デジタルコンテンツについてはどう思いますか。

三谷 僕は古い人間なので、デジタルコンテンツについては、今回初めて接したようなもので、あまりよく知りません。今回、配信で作らせてもらうに当たっては驚くことばかりでした。まず、Amazonプライム・ビデオのスタッフはテレビのスタッフよりもずっとおしゃれです(笑)。それから、テレビの場合は、先の予定に従って脚本を書いていきますが、今回はそれもない中で作り始めて、本当にみんなの目に触れるのだろうか、という不安と闘いながら作りました。こんなことは初めてです。時間も、テレビドラマは1時間とか30分とか、決まっていますが、今回は「少し伸びても構わない」と言われたので、それも新鮮でした。何もかもが新しい世界でやらせてもらっていると感じて楽しかったです。

-香取さんの部屋をのぞく佐藤二朗さん。それを動画で流すというのはとても面白いアイデアで、映画『トゥルーマン・ショー』(98)を思い出しましたが、このアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

三谷 「誰かが、見ている」というタイトルもそうですが、社会に適応できない舎人真一という男がいて、でも、彼は自分の知らないところで世界中の人を幸せにしている。それが最終的には彼自身の再生や復活にもつながっていく、そんな物語をやりたいと思いました。本来、シットコムは一話完結なんです。だから、主人公がいろいろなことを経験しても、次の回になったら、前のことは全て忘れていて、成長がないみたいな。それがシットコムなのですが、今回配信でやるに当たって、1回目が配信されたら、2回目は次の週なのかなと思っていたら、全部いっぺんにやるという。なぜなら、今はまとめて見る人がほとんどだから、と聞いたときに、では、全8話を、とにかく1本目を見始めたら、最後まで見ないと気が済まないような、本来のシットコムにはない連続性も加えて新たな形でやってみたいと思いました。それで、回を重ねるごとに、徐々に舎人真一が世界的に有名になっていく、それが最終的にはどうなっていくのか、という流れができました。

-香取さんは、これまでの三谷作品では“周りに振り回されるキャラクター”が多かったのですが、今回は、香取さんの方がみんなを振り回していく、という逆のパターンでした。演じてみてどんな感じでしたか。

香取 最初に台本を読んだとき、引っ掛け問題なのかなと思いました。台本を1回読んだだけだと、確かに振り回してもいい役で、三谷さんからは何も言われていないし、台本のどこにも書いてないけれど、「これの本当の意味は、あなた分かりますよね?」みたいな(笑)。振り回すようにはなっているけれど、今までやってきた感じだと「この役は裏にこんなテーマがあって…」みたいなことなのかなと。だから、すごく悩みました。三谷さんとは、ずっと、振り回されながらも中心にいる人物の役をやってきたので、最初は「本当にいいんですか?」という感じでやっていました。

三谷 引っ掛けじゃなかったでしょ。

香取 だから「本当にいいんだな」と分かり始めてからは、爆発していけたかなと。すごく楽しかったです。

-今回は、「コメディアンとしての香取慎吾を引き出したかった」と聞きましたが。

三谷 今回は一人芝居の部分が結構あるので、台本では書き切れない部分もありますが、そうした僕の思いを瞬間的に理解して、表現する。そのどちらもがパーフェクトな俳優さんは、香取さんしかいません。第1話の、ソファーの位置をずらすシーンで、手がソファーのすき間に挟まって抜けなくなる。そのうちに、もう片方の手や足まで挟まっちゃう。あれは台本にはなくて、現場で「ここでもう少し面白いことができないか」と話し合ったときに、香取さんが考えました。あれは、志村けんさんか香取さんかというぐらい、本当に力のある人でなければできないシーンです。だから、僕は喜劇俳優として香取さんに全幅の信頼を置いています。

香取 完成作の中の自分を見たときに、客観的に「こいつ面白いなあ」と思いました(笑)。

(取材・文/田中雄二)

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