ビックカメラは構造転換の時期にあると語る木村一義社長

2期連続の減益が見込まれる状況の中、ビックカメラは8月27日、突如として15年ぶりの社長交代人事(9月1日付)を発表した。新型コロナウイルスでビジネス環境が大きく変わり、これまでよりもさらに難しい舵取りが求められている。都市型店舗のビックカメラと郊外型のコジマを、グループとしてどのようにまとめていくのか。木村一義社長に聞いた。


取材・文/細田 立圭志・南雲 亮平 写真/松嶋 優子

新型コロナで環境が一変

皆さん驚かれていますが、一番驚いているのは私自身です。2期連続の減益が見込まれるということで、状況の改善を図るために宮嶋宏幸社長(当時、現・副会長)から声がかかりました。

小売業全体でみても、新型コロナ以前は都市部への人の流入やインバウンドが、ターミナル駅に構えた都市型店舗を後押ししていました。それが新型コロナで一変し、今では逆に郊外店が多いコジマに強い追い風が吹いています。在宅勤務の導入や三密を避けて車で移動するといった行動様式の変化によって、家の近くの店で買い物するお客様が増え、都市型と郊外型で明暗が分かれる形になりました。

前期の業績は新型コロナの影響で説明がつきます。しかし、さらに前の期の大幅な減益については、詳細に分析する必要があります。ビックカメラにとって、大きな構造転換の時期にきているということです。

そして、ビックカメラが今後、大きく構造転換を図るのであれば、これまでの延長線上では難しいでしょう。私は、7年前に証券会社という異業種からグループ会社のコジマにきている上、現在でも他企業の社外取締役を務めています。ビックカメラの社長に専念してほしいという声もありますが、こうした異業種で培った経営経験や、業界の慣習にとらわれない視点をもっていることで、大胆に、そして機動的に変革していけます。こうした「経験」を生かすことが、今回の私に求めれているミッションだと考えています。

「商品力」で価格競争から脱却

まずは、商品力の強化による収益構造の変革です。成功している小売業に共通しているのはSPA(製造小売)などによる商品力の高さです。ほかで扱っていないオリジナリティのある商品で勝負しています。一方、厳しい状況に置かれている家電量販業界は、メーカーから仕入れたナショナルブランドの商品を売っているため、競争する武器が価格しかありません。

もはや本部で一括仕入れをして、それを各店舗で売る、なんていうのは家電量販業界だけですよ。ほかの業界は、消費者に近いところで仕入れに注力するなど、明らかにビジネスモデルが変わっています。リアルの店舗を持つわれわれは、お客様と最も近い距離でビジネスをしているのですから、商品力や開発力は、こうしたマーケットインの発想を反映できるはずです。

メーカーですらプロダクトアウトからマーケットインに変わりつつあるのに、われわれは一括で仕入れて売っているという、これ事態がおかしなことです。仕入れの差額による価格競争だけでは厳しいです。まずは商品力を鍛えていきます。

しかし、今すぐにSPAになるということは残念ながらできません。ですので、これまで以上に目利きの鋭い調達力を鍛えて、時代の少し先を行く商品やサービスを取り入れていくことが大事になります。例えば、現在でも展開しているプライベートブランド(PB)商品の売上比率を2~3割に上げていくなどです。

変わるというか、変えていかなければいけません。同じ商品を仕入れて扱っていれば、差別化するのは価格しかなくなってしまいます。

同業で規模を大きくするためのグループ間の再編成や、トップラインを伸ばすためのM&Aは考えていません。もう、そういう時代ではありません。ただ、結果的に売り上げを伸ばすということでいえば、われわれが扱っていない異業種のM&Aはあり得ます。それも、まったくの飛び地にはいきません。お客様の仕事や生活、まさに暮らし全般につながることであればあり得ますね。

小売業の収益構造はシンプルで、売上高×粗利益率-経費です。成長戦略を描く際に売上高の伸びしろがあるのはECで、今後も伸びるでしょう。しかし、全体の多くを占める都市型のビックカメラの売上高を1割も2割も高めていくことは、そう簡単なことではありません。となれば、粗利益を上げるためには、いかに生産性を高めてコストを下げるかが大事になってきます。

ビックカメラとコジマの関係は?

コジマのときは敵に塩を送るようなことをして、競合他社を一時的に喜ばせたかもしれません。しかし、単に赤字店だから閉めたのではなく、マーケットのポテンシャルや周辺の競合と比べて、私たちの努力だけでは採算的に厳しいということで80店舗強を閉めました。しかし、止血をしたことで筋肉質になり、体力がつきました。いったん縮んで収益性を強くしてから攻めに転じたのです。

ビックカメラについても、制約なしに白紙の状態で見直していきます。もちろん、店舗数からしてコジマの時ほど多くはないですが、新型コロナ以前から不採算だった店舗などはスクラップ&ビルドに取り組みたいと思います。

私はコジマも含めて、店舗を増やして売り上げを増やすことは考えていません。売上高よりもまずは収益力、商品力、付加価値です。

私がコジマの社長に就任したときに、親会社のビックカメラと子会社の関係の中で、ビックカメラのコピーでは意味がないとして、ビックカメラ流にすることに断固反対しました。

ビックカメラは専門性と先進性です。半歩先の提案が求められます。一方で、コジマは現状の生活を応援するというスタイルです。ビックカメラの強いデジタル商品や売り場づくりのノウハウはコジマに取り入れましたが、ワンブランドにするのではなく、ツーブランド、ツーカラーの店を持つことが、こういう時代ではカギになってきます。(つづく)

木村一義(きむら・かずよし)

1943年11月生まれ、三重県出身。67年に日興証券入社後、00年に同社取締役副社長、01年に日興アセットマネジメント取締役社長、05年に日興コーディアル証券取締役会長に就任。12年4月、ビックカメラ顧問、同年11月にビックカメラ取締役およびコジマ取締役、13年2月にコジマ会長、同年9月に会長兼社長に就任し、20年9月よりビックカメラ社長(現任)。