8月27日の社長交代人事発表と同時に発表されたビックカメラの組織変更は、木村一義新社長が誰にも相談せずに直轄で実行した最初の仕事だったという。従来の小売業の常識が通用しないウィズコロナの時代に対応するための組織改革、そして不透明な時代に重要なことは「デジタルとアナログのハイブリッド」と語る。長年、生き馬の目の抜く金融業界を歩いてきただけあって、「収益」への熱い思いが伝わってきた。
取材・文/細田 立圭志・南雲 亮平 写真/松嶋 優子
<前半はこちら>
ビックカメラの木村一義新社長に聞いた、15年ぶりのトップ交代の意味=https://www.bcnretail.com/market/detail/20200926_192409.html
誰にも相談せずに実行した組織変更
確かに生産性を高めるには、AIやRPA(Robotic Process Automation)などのデジタル投資は必要でしょうが、注意しなけばならないのは、全てこれらは減価償却の対象となり、投資をするほど膨れ上がっていくことです。収益を圧迫していないか、しっかりと見極めていく必要があります。
また、小売業ではオムニチャネル戦略でECへの投資を加速していますが、プロモーションやシステム開発などの先行投資は、年々の償却負担として積み上がっていくことを忘れてはいけません。もちろん、ECの伸びしろはありますが、店舗と違って配送などの物流費は負担になります。よく見てみると、人手不足の問題も重なり物流費の単位当たりのコストは上がっています。
システム投資と物流費の二つの投資資本に対する利益率を、しっかりと管理する必要があるのです。ウィズコロナの時代、ECは間違いなく成長戦略として持っておかなければいけません。しかし、トップラインだけを見て成長戦略を語ることに危惧しています。
話は戻りますが、私はもっと商品開発に投資すべきだと考えています。こちらへの投資は、何年たっても会社の成長につながる投資だからです。これはどの企業にもいえることですが、何のための投資であるかを見える化するのです。投資が売り上げに直接結びつかなくても、作業負荷がどれだけ減って、接客時間がどれだけ増えたか、目的を明確にすべきでしょう。
ウィズコロナの時代は、売上高が1割下がるなんてことは往々にして起こり得ることです。売上高が下がってすぐに赤字になるようでは、これからは通用しません。ですから損益分岐点をもっと下げて、収益体質を強化する必要があるのです。
まさに誰にも相談せずに直轄で行ったことが、今回の組織変更です。経営戦略がP(Plan)、事業推進がD(Do)、経営管理がC(Check)で、投資のP、D、Cサイクルを回していくことが目的です。例えば、Dについては事業推進の下に商品本部と営業本部を置きました。小売業では商品本部と営業本部が別々のケースが多いですが、そもそもの小売業として本来おかしな体制です。
お客様に最も近いところでビジネスをしているわれわれが、マーケットインの発想で商品力を鍛えるには、今回の組織変更のように仕入れ、販売、商品、物流、ECを事業推進部門に集約する必要があります。そしてP、D、Cの3部門に分けることで、責任も明確になります。
「凡事徹底」と「進取果敢」
木村 進取果敢は、過去の20年と今後の10年がまったく大きく変わることを指しています。真面目にやっているだけでは潰れます。小売業は、もともと変化対応業ですから、変化にさらされるのが常です。むしろ、変化に対応するには、お客様に一番近いところで商売している現場から新しいニーズや発想、アイデアが出てこなければいけません。
ただし、お客様に対する凡事徹底は、どんなに時代が変わろうとも不変です。凡事徹底は、コジマのときから掲げていたスローガンです。
そして、進取果敢にはもう一つの意味があります。皆さんがいうように、過去の変化と今の変化はまるっきり違いますよね。
ダボス会議でも出たVUCA(ヴーカ、「Volatility=激動」「Uncertainty=不確実性」「Complexity=複雑性」「Ambiguity=不透明性」の頭文字をつなげた言葉)と呼ばれる時代です。不透明で混とんとしていて、先がなかなか読めません。私は、こういう時代のキーワードは「ハイブリッド」だと思うのです。
二律背反や「二兎追うものは一兎も得ず」などといわれますが、どちらに転ぶか分からないから二兎を追うのです。変化が読めない時代は、一方にこうだと思ってベット(賭けて)していたら対応できなくなります。最近でいえばDXでデジタル化が叫ばれてますが、私は「デジタルとアナログの両方を追いなさい」といっています。
みんながDXといっていると、逆にアナログのサービスや発想がかえって新鮮に見えることがあります。もちろん、効率化や新しいものを生み出すときにDXは必要ですが、みんなが効率一辺倒になると、例えば高齢化の中でアナログなサービスが貴重になるし、新鮮に映ります。だから、ハイブリッドなのです。
ビックカメラとコジマも、一緒にはせずに都市型と郊外型のツーカラーでやっていくことも、まさにハイブリッドなのです。新型コロナで、その大切さがはっきりと現れました。都市型が厳しくても、連結決算でみれば郊外型のコジマが支えています。ハイブリッドだったからです。
凡事徹底は不変の価値ですが、これだけでは勝てない。だから、どんどん変えていく進取果敢を前面に出していくという、先が読めない時代だからこそのハイブリッド戦略なのです。(終わり)
木村一義(きむら・かずよし)
1943年11月生まれ、三重県出身。67年に日興証券入社後、00年に同社取締役副社長、01年に日興アセットマネジメント取締役社長、05年に日興コーディアル証券取締役会長に就任。12年4月、ビックカメラ顧問、同年11月にビックカメラ取締役およびコジマ取締役、13年2月にコジマ会長、同年9月に会長兼社長に就任し、20年9月よりビックカメラ社長(現任)。