取材現場に現れた笑福亭鶴瓶が、とにかく元気なことに励まされる。コロナ禍の影響は鶴瓶の活動にも影響を与えており、とくに落語の仕事=舞台での生の落語は例年の3分の1程度に減っている。なのに、笑福亭鶴瓶は元気なのだ。まずは、コロナとの向き合い方について話を聞いた。
「コロナは厄介で大変だけど、それでもあきらめたらダメだと思うんです。瀬戸内寂聴さんの言葉で、いいなぁと思ったんですけど、ボールも地に落ちたら必ず跳ね返る。人間も苦のどん底に落ちたら跳ね返れるはずだと。その通りですよね。あと、落ちたくないとしがみついてるのが苦しかったら意外と手を離してみるのもいいかもしれない。落ちてみたら低くて大したことないなんてこともあるはずですから。あ、後半のやつは寂聴さんじゃなくて、僕がいま思いついた言葉です(笑)」
落ちるの「落」は落語の「落」でもある。落ち(オチ)のある話=落とし噺がその語源であるという説もあるが、今回の笑福亭鶴瓶落語会での最後のオチを聞かせてくれる大ネタは、12年ぶりの『らくだ』。鶴瓶の師匠である六代目笑福亭松鶴の十八番のネタであり、演者にとっては難解な演目と評されるものだ。
「『らくだ』って、むちゃくちゃな噺なんです。らくだというあだ名の主人公がふぐを食べて死んだというところから始まり、そのままずっと主人公が死んでるんですから(笑)。ただね、僕の『らくだ』は主人公を途中で生かすバージョンもあるので、もしかしたら両方のパターンをやるかもしれません。不思議なのは、久しぶりなので忘れてるかなぁと思ったんですけど、稽古していると出てくるんです。あ、これはいるなと。体の中に『らくだ』という噺がちゃんといてくれたんです。ただ、昔の自分の『らくだ』を聴きなおして思ったのは全然おもんないなぁということ。その場ではウケてはいるんですけど、余計なことばっかりしている。そういうのは全部排除して、師匠の『らくだ』に近づきたいです。たとえば、登場人物のひとりが酔っぱらって『うちのかかあがあれですわ。そうですわ』っていうシーンがあるんですけど、そこもね、ウケを狙いにいくんじゃなくて、人間がほんまに酔うてる様をいかに見せるかだと思っています」
『らくだ』という噺はどこを稽古していても楽しいと笑福亭鶴瓶は笑った。1時間を超える予定の大ネタをどう演じるのか? むちゃくちゃな噺の鶴瓶流怪演が楽しみでならない。
本公演は12月3日(木)~6日(日)まで、東京・赤坂ACTシアターにて上演。11月7日(土)の一般発売に先駆け、10月15日(木)10時より、いち早プリセール(先着先行)受付開始。
取材・文:唐澤和也