先にドラマ化もされた高田郁の同名人気時代小説を、角川春樹監督が映画化した『みをつくし料理帖』が10月16日から公開される。さまざまな困難に立ち向かいながらも、店の看板料理を生み出していく料理人の澪を演じた松本穂香に、映画の裏話や、料理についてなどを聞いた。
-原作はベストセラー、先にテレビドラマ版(澪役は北川景子、黒木華)もあり、演じる前は相当なプレッシャーがあったのでは?
角川監督の最後の作品で、そうそうたるメンバーの中で、という点でのプレッシャーはありましたが、先にドラマがあって、というところではあまり感じませんでした。ドラマは見てしまうと気負ってしまうかなと思ったので、あえて見ませんでした。それがかえってよかったのかもしれません。
-本作の大きなポイントの一つは、江戸と上方の料理の味付けの違いです。ご自身は大阪出身で澪と同じなので、言葉遣いに苦労はなく、感情移入もしやすかったと思いますが。
方言に関しては、つまずくことはありませんでした。私自身は、大阪と東京とのギャップの大きさや、味付けの違いはあまり感じていません。劇中にもところてんが出てきますが、大阪では黒蜜で食べるので、東京に来たときに「ないんだ」とは思いましたが、澪ほどの驚きはありませんでした。澪は敏感な人だと思います。
-今回は、事前に料理学校に通ったと聞きましたが、もともと料理はしていたのでしょうか。
料理はあまりしていませんでした。今回は、プロの方に基本的な所作から教えていただいて、劇中で使う包丁を使って野菜を切ったり、皮むきをしたりしました。料理人の切り方は、自分が今まで認識していたものとは違っていたりもしたので、そういうところを一から教えていただいて、家で練習をして、また学校に行って、ということを繰り返しました。
-料理人の役をやって、料理を勉強したりもしたので、自分で作ってみたりはしましたか。
撮影中は、劇中に出てくる料理を、だしから取って、家でも作ったりしました。自粛期間中は、煮物などを作っていました。
-けなげさと一生懸命さ、強さを併せ持ち、周りの人にも恵まれる澪を演じた感想は?
澪は料理人でお店を持ってやっている人ですが、「私に付いてきて」というタイプではありません。澪が一生懸命に、一心に、料理と向き合っている姿を見て、周りの人も協力したいと思って集まってくるというタイプです。私も、周りの方々を引っ張っていくタイプではないので、できるだけ一生懸命にやって、それで皆さんに「この人だったら」と思ってもらえるようにしたいと思いました。
-澪と自分自身が重なる部分はありましたか。
「澪はすごいな」と思いながら演じていました。あの若さで「道は一つきり」なんて、覚悟を決めて言える強さがあります。頑張ってそこを演じたい、澪に追い付きたいという気持ちでやっていました。
-角川春樹監督の印象は?
本読みを何度も重ねてくださり、完全に出来上がった、不安のない状態で撮影に入れたので、とてもありがたかったです。また、撮影に入る前から「澪に成り切るのではなく、穂香のままでいい」とおっしゃっていただいたり、心強い言葉をたくさん頂きました。「女性は褒めて伸ばす」とおっしゃっていたので、現場でも「今日は素晴らしかったよ」と声を掛けてくださったりして、優しく見守ってくださいました。周りの方から「伝説がたくさんあって」と聞いたので、いろんな経験をされた波瀾(はらん)万丈な人生といったら角川監督という印象はあります。私はそういった伝説をあまり知らないまま撮影に入ったので、かえってよかったと思います。
-では、共演者の印象は?
特に、石坂浩二さんと若村麻由美さんとは一緒にいる時間が長かったので、若村さんからは所作や歩き方といった基本的なことを教えていただきました。石坂さんは、昔の角川監督との思い出をお話ししてくださいました。角川映画の歴史の中に、私もこういう形で参加させていただいているのは、すごいことだと思いました。奈緒さんはとても穏やかですてきな方だと思います。空気感が合うのか、すんなりと仲良くなれました。窪塚洋介さんは、会うたび「原作を読んだけど、澪のまんまだね」とおっしゃってくださるので、心強かったですし、自信になりました。
-最後に観客へのメッセージと、映画の見どころをお願いします。
今も「女性が強くなった」と言われますが、そう言われている時点で、まだまだ男女の差があるのかなと思います。そう考えると、江戸時代に、澪のように、女性一人で、料理人で、というのはすごいことだと思います。そうした女性の強さが描かれている作品なので、そこに注目していただければと思います。女性の方がより共感できる部分があると思います。
(取材・文/田中雄二)