その中で佐藤健=剣心を筆頭に、吉川晃司演じる鵜堂刃衛、江口洋介演じる斎藤一、香川照之演じる武田観柳など、個性的なキャラクターがどうリアルに息づいているかに注目だが、ドラマとしてのリアル――映画でドラマを描くに当たってのリアリティーが本作に間違いなく厚みを与えてもいる。
それはこんな場面だ。武井咲演じる神谷薫の道場が襲われ、剣心がすべての罪をかぶる形で、警察に捕らわれてしまう。やがて釈放される剣心。雨の中、彼が外に出ていくと、そこには傘を持った薫が立っている。コミック原作かどうかに関わらず、ドラマにはよくある展開だろう。ただ、どうして剣心が釈放されるタイミングがわかったのか。それこそマンガ的に過ぎるというもので、ご勝手ご都合主義だ。
しかし『るろうに剣心』では、そこにもうひとつの描写が加わる。入り口に立つ、守衛役の警察官。彼が剣心と薫のことを心配して気遣うように、そしてホッとしたようにながめている。剣心に罪はないとわかっていた彼が、釈放の日時を薫に教えたのだろうと見えてくる。一見、マンガ的に過ぎる場面で、いくつもの描写が重なり合い、剣心の薫に対する思い、薫の剣心に対する思い、若いふたりを見守る警察官の思いまでリアルで確かなものとして浮かんでくる。映画としての厚みを感じさせたくれるシークエンスだ。
コミック原作としてのリアリティーはもちろん、映画としてのリアリティーを『るろうに剣心』は描き出そうとしている。丁寧に作られた映画として、原作ファンのみならず注目だ。