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9月に新国立劇場舞踊芸術監督に就任した吉田都が、シーズン開幕のバレエ『ドン・キホーテ』初日前日の10月22日、開幕直前会見に出席、公演への思いを語った。
「リハーサルをして感じているのは、歴代の芸術監督たちへの感謝の気持ち」と明かす吉田。が、その芸術監督生活は困難の中で始まった。就任後初の公演として予定していた新制作『白鳥の湖』は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で断念。かわりに、大原永子前芸術監督在任中の5月に中止せざるを得なくなった演目『ドン・キホーテ』を上演することに。日替わりで6組もの主役カップルが登場するその配役は、大原前芸術監督による。
「デビューのダンサーもいます。前芸術監督が最後にこのダンサーたちの舞台を見たい、と選ばれた。その思いを引き継ぎ配役はそのままで上演します」
新国立劇場が上演しているA・ファジェーチェフ版は、彼女自身も踊っている。1999年3月の初演時のことで「ずいぶん遡りますが(笑)、今回、(主役の一人)米沢(唯)さんは、その時私が着ていた衣裳を着ると聞いて、驚いたんです!長く上演する作品ではそういうこともあるんですね」と笑顔を見せた。
「ダンサーたちの反応はすごくいい。長年の積み重ねがあるからこそと感じました。島田廣先生(1997年の開場直後の芸術監督)の時代から、時間をかけて、バレエ団をここまで育ててくださった。料理でいうと、私は最後の味付けというか、彩りを添えるというか、いちばんいい仕事をさせてもらって─。ありがたいなと思います」一方で、新型コロナウイルスの現状を鑑みて、1月の公演で予定されていた新制作『デュオ・コンチェルタント』を断念、かわりにバレエ団のダンサーが振付けた作品(『Contact』、『カンパネラ』)と、9月に亡くなった深川秀夫の作品『ソワレ・ド・バレエ』を上演することにも触れた。
「深川先生は60年代、70年代に国際コンクールで入賞し、ヨーロッパに渡った先駆者。どれだけ日本のバレエ界に勇気と希望を与えてくださったか。追悼の思いを込め、新国立劇場バレエ団のために手直しされたパ・ド・ドゥを上演します」
「吉田都セレクション」も『眠れる森の美女』に変更することが発表されたが「不安定な状況のまま、どんどん時間が経っていくことが不安で、しっかり進む方向を決めていこうと思いました」という力強い言葉が印象に残った。

文:加藤智子